アフリカの鉄十字

Bf109 ドイツ軍

概要

初出

『プレイコミック』1969年8月10日号

作中日時

1942年10月23日~24日

関連場所

エル・アラメイン近傍

登場人物

ワルターフォン・ラインハルト大尉 ドイツ空軍パイロット・JG58所属
ランファイア中尉 RAF所属パイロット
レア・カトリーヌ RAF所属自由フランス軍パイロット・階級不明

登場兵器

Bf109G(おそらくG-4)
スピットファイア

あらすじ

1942年10月23日。エル・アラメイン上空。

北アフリカ戦域で戦うJG58所属ワルターフォン・ラインハルト大尉はBf109Gで戦闘中、砂嵐に巻き込まれる。無線機もコンパスも被弾していたため、たまたま発見したコンクリートデザートに不時着し、コクピットで仮眠をとる。

目を覚ますとエンジンはすっかり冷え切り、始動に手間取ることを危惧するラインハルト。その時近傍に人の声を聴く。

ハンドガンを片手に確認すると、なんと松本的くんずほぐれつ中の男女。近隣には2機のスピットファイア。一機は着陸時に破損している様子。彼らも砂嵐を避けて不時着していたらしい。武士の情けで見なかったことにするラインハルト。

翌朝、自己紹介する3人。二人はRAFのランファイア中尉と自由フランス軍のレナ・カトリーヌ。地上ではお互いの機体の評価などで仲良く語り合うラインハルトとランファイアだが、やはりそこは戦闘機乗り、空で決着をつける約束となる。

しかし、決闘の刻限まで時間があるからといって、のんびり昼寝して、さらに寝過ごしてしまうのは、その劇画タッチのご面相に似合わずきわめて松本零士的ではあるのだが、ついうっかり寝過ごしてしまうウサギ的ラインハルト大尉。目を覚ますとランファイアがエンジンの暖気を終え先に離陸している姿を見る。

びびりながらエンジンを始動するラインハルト。なんとか離陸はするものの、エンジンの暖気が足らずに低空を這い回ることしかできない。

上空から撃ちおろしてくるランファイア。スピットと低空で格闘戦はきつい。しかしなんたる奇跡か、上から撃ち落としてくる弾丸がなぜか機体下部に吊下した増槽に命中(マジ奇跡)。燃え上がる増槽がエンジンを温めてくれたのだ。

高度ゼロから反転上昇してランファイアの後方に占位するラインハルト。MK20ミリモーターカノンとMK17 7.9mm(いずれも機首装備)でランファイアを撃墜。ランファイアはハルファの北に落ちる。

着陸しカトリーヌと語らうラインハルト。機体内部に乗せようかと提案するが、カトリーヌは断り、代わりにその体をラインハルトに与える。カトリーヌを置いて一人離陸して帰還するラインハルトだったが、別れ際にカトリーヌを抱いたことがPTSDとして後に長く彼を苦しめるのだった。

いろいろ思うこと

エッチシーンあり。くんずほぐれつ状態の足だけを描く松本メソッド。それにしてもカトリーヌ、足首まである長髪に短パンだよ。胸も大きく開いてる飛行服がすげぇ。女性専用の飛行服なの?女性Pがいるのはいいけど、その格好で戦闘に出るのはなかなかのもの。

機体後部に人を乗せる案件。第一話から出てきます。後々何度も出てくるネタですね。「わが青春のアルカディア」とか思い出深い。このおかげで戦闘機の後部胴体は操舵のワイヤー以外はがらんどうなイメージがついちゃったのですが、実際どうなの?

コクピットで仮眠てすごいよ。俺、むかしカプチーノのシートで寝てたことあるけど、ロードスター乗りに驚愕されたことがあります。きっとああいう感じだよ。

カトリーヌのスピットはおそらく破損した方だと思うが蛇の目が描いてあるので、カトリーヌ自身は自由フランス軍からRAFへ志願した義勇兵らしい。所属はあくまでもRAFなのだろう。

登場機材について

Bf109EとG

みんな大好きトロピカルフィルター。この話ではラインハルトが冒頭に「G型」と明言していますが、G型も色々です。

ランファイアは「機首の小さなE型としかやったことがない」といっていますが、E型はエンジンがDB 601Aですが、G型はDB 605。全然違う。中身は別物という奴ですから気をつけろランファイア。見てわかれよ。

E型はこういう感じで

Bf109E エミール

G型はこうです(G-5)。ラインハルト機は機首のコブがついていますから、G-5以降のはず。

Bf109G グスタフ

機首が「大きい」「小さい」というよりは「長い」「短い」。ファントムのショートノーズとロングノーズくらい違いますね。要するにこれはエンジンの違いなわけです。

MG17

作中でMK17 7.9ミリと表記がありますが、、これはおそらくMG17 7.92mm の誤りでしょう。G-5以降はMG17からMG131 13mmに改変されるので、ラインハルト機はG-4以前の方だと思い
ますが、G型でよく機首に描かれているコブはMG131搭載のためだと思うので、この辺もちょっとあやしい。「MK20ミリ」はMG-FF20㎜なんでしょうね。

ちなみにG-4型はこんな感じ。

Bf109G-4 グスタフ

コブがなくてすっきりしてるでそ。
だから設定はG-4だけれど、作画はG-5ということでちょっと間違ってるんだと思うのです。
実際「アフリカの星」ことJG27のハンス・マルセイユ大尉の機体はBf109F-4/Tropというもう一つ前の型ですから、たぶん北アフリカ戦線当時とすると本来はF型が時期的には正しいんでしょう。

でもきっと零士はG型のコブが描きたかったんだよ。仕方ないよね。

急いで離陸!

短距離離陸で、無理やり足をひっこめて水平に速度を乗せるT/O。そういえば無頼でもUSAFのベテランとか神田がやってたっけなあ。レシプロ機だと「プロペラがロックサンドを叩く」というシビれる描写になります。

JG58

ラインハルトはJG58所属だそうで、この部隊、ちょっと調べたけどわかりませんでした。北アフリカ戦線と言えば、前述ハンス・マルセイユ大尉のJG27がまず思い浮かびますが、なんで架空の戦隊にしたのかな。Jagdgeschwader 58でぐぐってもでてきません。これもまたわかったら追記します。

エンジンスターター

ラインハルト、一人でエンジン始動するけど、Bf109ってセルスターター搭載なのかなあ。
どこかで
「エナーシャ、回せ!」
「ヤー!!」
ってやってた気がする。「アルカディア」だったっけ?

空戦

ラインハルトの反撃、高度ゼロから反転上昇でポップアップしてランファイアの6時につくのだが、ランファイアは燃え上がる煙を見て先に反転してたのかな。ランファイアが後方にいればヘッドオンになるはずなんですが。

コンクリートデザート

コンクリートデザート、新谷師匠もよく活用するけど、ぐぐってみてもよくわかりませんでした。
飛行機が離発着できるような自然の平坦地、実在するんでしょうか。

1942年10月23日

気にしていなかったのですが、冒頭で明示されるこの日付、実は重要な意味がありました。

イギリス軍の反攻は1942年10月23日夜ライトフット作戦から始まり、さらに11月1日夜からスーパーチャージ作戦を開始した[49]。この攻撃により枢軸国軍の戦車等の戦力は残り僅かとなり、11月4日、指揮官のロンメルは枢軸国軍の西(リビア方面)への撤退を命令した[50]

1942年7月から1942年11月 エル・アラメインの戦い

なんと、エル・アラメインにおける連合国反攻開始のその日のできごとだったんですね。
ラインハルトがランファイアとカトリーヌの一戦を出歯亀していた1942年10月23日夜、まさにその時に連合軍の反抗作戦であるライトフット作戦が開始されていたのだと。

そうだったのかー!

やるな、零士。

ハルファの北

ランファイアは「ハルファの北に落ちた」らしいけれど、ハルファがよくわからない。ワジ・ハルファという地名は見つかったけれど、これはスーダンの方で、エル・アラメインとは全然別方向。「ハイファ」はイスラエルで、これまた全然方向が違う。「ハルファ」については今後なにか見つかったら追記します。


エル・アラメインの戦いを調べていて発見。

前哨戦、アラム・ハルファの戦い
ロンメルは当初の計画をあきらめ、第21装甲師団が防御しつつ第15装甲師団には、さらに迂回してアラム・ハルファ高地に陣取る英軍本陣を突こうとした。しかし、補給不足の中を進軍する第15装甲師団は英第22戦車旅団と衝突し敗走した。
この戦いで英軍は攻勢にでることなく防御のみで勝利した[11]。

エル・アラメインの戦い

アラム・ハルファ高地、探しました!Googleマップじゃ出てこないのはなぜ?

アラム・エル・ハルファとあります。資料によってアラム・ハルファとかエル・ハルファとかだったりします。

ハルファ高地の位置

ハルファ高地はここ

「エル・アラメインの戦い」というのはこのハルファ高地を巡る戦いでもあったようです。

ようするにこの一作、エル・アラメインでの連合軍反攻開始の話でありルフトヴァッフェとDAKが北アフリカから叩き出される、その始まりの瞬間を描いていた話だったわけですね。

ラインハルト大尉の勝利は北アフリカにおけるルフトヴァッフェの最後の輝きだったわけです。

まとめ

Bf109(松本零士はMe109表記が多い)がしょっぱなから大活躍。女たらしのRAFのスピットを規律正しいルフトヴァッフェのPがかかとをカツーンと鳴らしながら撃墜する。かっこいい!

調べてみたら日程と言い場所と言い、「エル・アラメインの戦い」を完全フィーチャーした一作だったのですね。ここまではとは思いませんでした。零士すげぇ。

カトリーヌは基本的にオサセでやな女だと思うので、ラインハルトは戦後もそんなに気にしなくていいのに!って昔から思ってました。

この「アフリカの鉄十字」を含む最初の3作はプレイコミックとCOMに掲載で、時期的にも3年くらい早いので、以降のシリーズとは絵柄も少し違いますね。昔はこの劇画タッチが苦手でしたw

エル・アラメインの話であるのは冒頭にある通り、で当然その理解はあったのですが、作戦日時を確認すると、松本零士がどれだけエル・アラメインの戦いを調べ、そこにフィクションを潜り込ませるタイミングを計ったのか、非常に奥深いことがわかりました。
現代の様に日付入れてぐぐれば何の作戦の日だったかわかるような環境はなく、書籍を集めて熟読しないとできないことなのです。

この一作にどれだけの調査、考察をかさね、そこに自分のイマジネーションを投影したのか。

第一作目の購読ですごいところ引いちゃった気がします。
零士すげぇ!

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