晴天365日

艦上偵察機「彩雲」 帝国海軍

概要

初出

『ビッグコミックオリジナル』1975年6月20日
 

作中日時

不明。

 

関連場所

ハンパダン島(架空)

 

登場人物

新谷 操縦士
森 機長・偵察員
島井 機銃手
米国人記者
陸軍パイロット

登場兵器

彩雲
TBFアベンジャー
一〇〇式司令部偵察機III型

あらすじ

ハンパダン島基地の秘策、新鋭偵察機・彩雲による4段索敵。4機目の偵察機「闇夜のカラス」は技量不十分で基地でも周りに心配ばかりかけている。

ある日も離陸後雲の上に出るや進路と逆方向に飛んで、思わぬ空域で英軍の迎撃を受ける。基地に戻ろうとしても機位が不明。困ったところで、米軍の強行偵察任務中のTBFアベンジャーに遭遇し、自基地まで追跡することとする。
雲から出た所で発見され後部銃座より射撃を受けるが、アベンジャーは未熟にも自機の垂直尾翼を誤射し、勝手に墜落していく。気が付くとちょうど基地の上空だった。

帰投後、三人ペアでドラム缶風呂に入っていると、突然敵の銃撃を受ける。敵はトミーガンで武装した女性。取り調べると取材のため強行偵察機の後部銃座に同乗していた民間人の新聞記者だったらしい。

司令より新たな任務を受ける。陸軍の一〇〇式司偵の操縦講習を陸軍Pより受けて出撃するべしとのこと。

陸軍Pの指導を受け、3人は離陸する。離陸直後、基地では撤収作業が開始され、陸軍Pは「やつらは囮か」とつぶやく。

またもや敵偵察機と遭遇し追跡する森ペア。敵地上空を首尾よく航過するが、機体後部に侵入していた女性新聞記者に拳銃で脅される。新聞記者は島井の飛行服とパラシュートを奪い敵基地に降下していく。
「闇夜のカラス」は偵察を完了し離脱を測るが、大量の追跡部隊がついてしまう。このまま敵を基地に連れて帰ると基地が全滅してしまうため、三人はしかたなく高度を上げ、基地とは別方向へあてもなく飛び、敵部隊をけむに巻くのだった。

空には昼間の星が輝いていた。

登場機材

彩雲

17試艦上偵察機。
彩雲、艦上偵察機ですが、空母に専用の偵察機を置いていた国は少なくて、米海軍ですと作中の様に艦上雷撃機や艦上爆撃機がその任に当たっていました。
日本が偵察機好きなのは有名ですが、このお話で米海軍がTBFを偵察機に使っているのが好対照ですね。
自分でちょっとびっくりしたのは、「俺ってあんまり彩雲には思い入れないんだなあ」ってw
「我に追いつくグラマンなし」なんて燃えるエピソードがある割には、あまり関心がなかった気がします。垂直尾翼の後端が空母のエレベータに合わせて変な風にカットしてる、とかそういうどうでもいい豆しか出てこないw

戦後に米軍が例によってハイオクの燃料といいオイルでテストしたら、四式戦よりも速くて、帝国海軍の最高速機に認定されたそうです。

TBFアベンジャー

グラマンの雷撃機。機体後方下部に口が空いているのがむかしから気になって仕方がない。

パパブッシュもこれにのってたらしいですね。

一〇〇式司令部偵察機III型

両エンジンの内側カウルだけアンチグレアしてあってかっこいい!
所属は尾翼の虎のマークですぐにわかります。独飛第18中隊所属機です。
独立飛行第18中隊/司偵防空戦闘機隊(隼第2383)
◆使用機種
九七式偵察機、百式司令部偵察機(新司偵)◆部隊史
司偵としては最古参。13年3月?13年8月北支方面遠距離捜索。
13年9月-12月漢口攻略作戦協力戦略捜索。
13年12月第一飛行団長の指揮下に入り、奥地進攻のための偵察。
14年1月?2月奥地航空進攻作戦(重慶、蘭州)の捜索。
14年4月飛行第四十四戦隊に編入。15年9月再び独立飛行第十八中隊に復帰。
15年10月ハノイに移駐海軍航空隊のビルマ、ルート及び
昆明等奥地攻撃のための捜索に協力。
16年4月台湾を経て漢口に移駐重慶地区及び奥地飛行場群を捜索。
16年9月広東に前進桂林その他の飛行場群の攻撃。16年12月香港攻撃作戦。
17年3月ハノイに移駐、昆明等奥地飛行場群の捜索及び仏印作戦。
17年8月漢口に帰還。奥地進攻作戦(重慶衡陽零陵等)の攻撃に参加。
粤漢作戦のため漢口?広東間の航空写真撮影実施。感状四回受賞◆編成/昭和13年2月中国
◆復帰/昭和19年10月31日漢口
ハノイから呼び寄せられたのでしょうか。

 

プラモデルはこういうのが出ているみたい。


II型とIII型のコンバーチブル。虎のマークの垂直尾翼に注目だ。零士に敬意を表してIII型で作ってくれ。

豆ついでですが、三式戦の液冷エンジンがなかなか作れず、首なしの機体に余ってた金星をくっつけて五式戦を作った話は有名ですが、あそこで使われた「余るほどあった金星」というのは一〇〇式司偵用のエンジンだったそうです。

戦闘機が足りないのに、双発偵察機のエンジンばっかり余るほど作ってるってのは、いったいどうなってんの!?って気がしますね。

いろいろ

なんか不思議な話ですよね。

フォン・ベルグマン「空の詩集」 一九一八年

零士名物・架空ポエムの初出。
架空の詩人の架空の詩。

ここまで
「無名の戦車兵は言った…」
とか
「今もなお風のごとく疾駆する四式中戦車を見ることがあるという…」
とかそういう「と人は言う」系の表現はあったけれど、架空詩人の架空詩の形で出てきたのはここが初めてですね。

ポエム形式は弟子の新谷師匠に受け継がれ、「エリア88」で巻末ポエムとして男心に火をつけて猛威を振るいます。戦場まんがでもここまで「バガヤン峡谷、大昔ここは墓場であったという…」とかの嘘つき伝聞形式はありましたが、架空詩はここが最初です。

詩はいいですよね。言いたいことをストレートに言ってもいいし、内容と関係なく、言いたいことのエッセンスを取り出して関係ない表現で語ることができる。

架空詩人ポエムは零士の大発明だと私は思っています。

例えば「戦闘妖精・雪風」の各章ごとのポエムも零士・新谷ラインのポエムに影響を受けていると思いますよ。

後世への影響大!

どこの話?

場所の妄想。

ヒントはたくさんあります。

「雲上に出てから右に旋回。内陸へ向かいました」「いかん、今頃ヒマラヤの上あたりにいるかもしれん」

つまり基地はインド洋のどこかにあるってことで。

反対に飛んじまった

 ヒマラヤ方面は逆ってことですから、つまりは南方を偵察しようとしていた。本来の偵察方向はインド洋沖合方面てことか。
ということで
位置的なイメージとしてはアンダマン諸島を挙げます。
アンダマン諸島

イメージソースか、アンダマン諸島

アンダマンがハンパダン。ぴったりじゃないすか!

実際に海軍の基地もあったようですが、後述する時期的な問題とは全然合いませんのでご注意。

いつの話か

彩雲、一〇〇式司偵III型が実戦配備ということは、いくら早くても1944年秋以降。
その時期に米機動部隊がインド洋で作戦してるってのもどうかと思うし、もしいたとしてもインド洋っていってもスマトラとかスラバヤとかそっちでしょ。
帝国陸海軍のインド洋の活動としては42年夏までかと思います。そうすると「転進」はガダルカナルに転用されるための撤収だったのかな?
どうしても矛盾が発生しますので、ここは機材の配備年を勘案して1944年末から45年初頭くらいと妄想してみましょうか。

秘策・四段索敵

索敵でいえば、ミッドウェーでの二段索敵がミリオタ的には有名ですね。
あと、あ号作戦でパラオ沖合で三段索敵を実施したという記録があります。
そのさらに上を行く四段索敵。多けりゃいいってもんでもない気がするがw

 

空母機動戦での多段索敵は、双方移動している中での敵機動部隊位置の発見漏れを防ぐために行うわけなので、4段まで組んで同一の索敵線をしつこくトレースするってことは、ハンパダン島の偵察部隊は南方洋上の敵機動部隊を徹底捜索中のようです。

ぼんやり読んでると、後半に出てくる敵の基地を偵察してるような気になりますが、冒頭で他の偵察機が「内陸と逆方向」を偵察しているような記述がありますので、洋上の敵機動艦隊を四段索敵で探していたと考えるのが妥当だと思います。

台湾沖航空戦辺りのイメージかなぁ。捷号作戦直前くらいですか。

闇夜のカラス

四段索敵の四段目、森ペアのコードネーム。
「闇夜のカラス」ってことは要するに誰からも気づかれないけど、自分も何も見えてないってことじゃないですか。そんなん飛ばすなよw

 

突撃機動軍第7師団第1MS大隊司令部付特務小隊「黒い三連星」とか、第67グリマル級分岐艦隊司令部第8強行偵察隊099コードネーム「青い風」とかに比べるとちょっとかこわるい三人組です(ロリコン三人組も登場時はかっこよかったのである)。

馬鹿言ってるけど森ペアの空中での落ち着き具合とかを見ると、実はかなりの実力ペアじゃないのかなあって気がするんですが(笑)

新谷

新谷です。どう見ても新谷ですね(笑)
森と島井もアシスタントなの?

 

顔文字で言うと
ε(
って感じ。

天測っちゅうたって太陽しか見えしまへんがな

のちの「昼間の星」に対応してるんだと思うんですが―。どうなのかな。

 

ちなみに彩雲の上昇限度10,740m 、一〇〇式司偵10,720mだそうです。
彩雲の方が高いくらいですが、実際に彩雲でそこまで上がるとほとんど身動きが取れないくらいです。普段の任務中も一万まではあがらないでしょう。なにしろ「闇夜のカラス」の任務は敵艦隊捜索ですしね。
逆に戦略偵察に使われた一〇〇式司偵は一万メートルでも楽々飛んだのじゃないかと思います。

60時間やろか。まてよ16時間ぐらいやったでっしゃろか。

新谷の飛行時間申告。
陸軍のデータですが、
例:世傑より受け売り
昭和18年10月入隊(陸士卒後)のある陸軍操縦士の場合、
95中練  75時間(宇都宮飛行学校)
97戦   10時間(ネグロス島訓練所)
1式戦  10時間(第一戦隊教育隊)
2式単戦 10時間(第47戦隊)
4式戦  120時間(同上)
合計   225時間(昭和20年8月14日まで)
 
60時間が本当だとしたら、それでも全然足りない。練習機も終わってないくらい。

 

そんなジャクが最新鋭の彩雲に乗せられちゃう。
大戦末期の戦力不足は恐ろしいですよね。

自分の尾翼を撃つTBF

後ろから近づくとぱかーんと案件。

それにしても、後部銃座の射界はどうなってるか。

尾翼が後部銃座の射界の邪魔になるのは問題になっていて、

第二次世界大戦までの大型爆撃機には背部の機銃で迎撃を行う際の射線を通すため、双垂直尾翼のデザインが多く見られる。

尾部銃手

などと、機体設計にも影響を及ぼしていたようです。
あんなにでかいんだから、当然TBFは動力銃座だよなあと思ってぐぐると
松本零士氏の漫画でTBFが自身の垂直尾翼を撃ち抜いて墜落する話がありますが、TBF後部銃座は動力式で射界制限装置が付いているはずです。そもそも、民間人の同乗者(しかも女性)を「水平ウンコ座り」の狭苦しい後部銃座に乗せるとは考えられないのですけど、まぁそれはお話ということで。
なんてまさに正解が書かれていたのでした。
ということで、動力銃座には自機の尾翼を撃ち抜くことがないように射界制限装置がついていましたが、天山みたいな国産の手動銃座では、銃手の技量によっては自機の尾翼を撃つこともあったようです。

 

こっちは後部銃座画像がたくさん。

新聞記者とトミーガン

なぜか下半身まるだしw
ここが帝国海軍航空基地と知ってトミーガン一丁で殴りこんで来る(しかも下半身丸出し)。意図がわかりません。降伏するか、ジャングルで救援を待つかのどっちかだと思うんですが、一体なにがしたかったのでしょうか。

 

もしかしてどうしてもお風呂に入りたかった?

スロットルレバーを引けばすなわち飛ぶのだ

陸軍と海軍はスロットルの向きが逆だから気を付けろよーって、このあと97戦の話の時に出てきますが。

はじめまして。教えてください。
日本の陸軍機と海軍機ではスロットルの開き方が逆だったときいたのですが、
事実ならばどっちがどう(押したらはやい、とか遅いとか)だったんでしょう?
たまき

  •  陸軍機はスロットルを引くと回転数が上がり、海軍機はスロットルを押すと回転数が上がります。
    二式砲戦車
  • 陸軍がフランス式で「引いてパワーアップ」、海軍がイギリス式(今の世界の主流)で「押してパワーアップ」だったようです。
    ささき
  • 各機体によって異なる、というのが本当のところでしょう。
    BUN
  • 「陸軍と海軍はスロットルの操作からして異なる」と言うのは俗説です。それは単に草創期にフランス式であったか、イギリス式であったかの違いなのですか、例えば大東亜戦争時の戦闘機を調べてみてください。事実ではないことが判ります。
    BUN

http://www.warbirds.jp/ansq/1/A2001227.html

はいこれがFA。

 

航空機の国産を開始した頃は逆だったけれど、一式戦の頃からはもう世界標準に合わせていたんですね。陸海の中の悪さは有名ですから、そういう印象で「ずっと逆だった」と書きがちなことはあると思います。

ちなみに陸軍P、雨のハンパダン島で、傘さしてコクピットに入ってますが、私の知り合いのビート乗りは雨でも必ずフルオープン。止まった時はロールバーに掛けてある傘をさしてました。

海に落ちる時のような仕掛け

海軍機は海上で作戦する前提なので、主翼には水密区画があり、胴体にも浮力用の区画があったのですぐには沈まないようです。


たしか「ダンケルク」ではスピットファイアで海に落ちたPが、死にそうになりながらコクピットから脱出する様子が描かれていましたね。一度見て浮揚装置なしでの着水にびびってください。

本来二人乗り

II型には偵察員の席の前に教官・航法士席を設けた3人乗りのII型改が存在したらしいので、そのノウハウでIII型を改造したものかもしれませんね。

 

昇降舵が重い

おなじみ後部胴体の同乗者。
ハーロックはふわふわした感触と言っていました(あっちは切れかかってる)。

 

ワイにもみせてくれよー!

分離コクピットなので、操縦士が後席に移動することはできないのです。
もちろん飛行中は無理でしょうw

 

バイバーイ

脱出に成功した新聞記者がご機嫌で言ってるんだとずっと思ってました。


いや、吹き出しをよーく見ると、新聞記者じゃなくて島井の方がいってるんですがww

昼間の星だ

最初の読み返したときは読み筋がよくわからなかったです。
昼間の星ってなんだ?こいつら既にもう戦死してるっていう暗示なのかとか。

繰り返し読み返しましたが、読んだ感じでは、高度を成層圏まであげたものと読むことにしました。成層圏では昼間でも星が見えるらしいです。宇宙に片足突っ込んでますからね。

前述したとおり、彩雲ではとても上がれない高度まで上がったのでしょう。

自動操縦

自動操縦装置、あったらしいです。

でもウェイポイントの座標を入力すると勝手に飛ぶとか、現代のドローンの様に自律飛行して戦闘するとか、ドグファイトスイッチを入れると敵と自動空戦するとかじゃなくて、多分高度と方向を同一に維持するような装置だったのじゃないかと思います。

飛行機をまっすぐ飛ばすって、素人が考えるよりも難しいことです。素人は操縦桿とスロットルから手を離すと、そのまままっすぐ飛び続けると思っちゃうw

まとめ

ううむ、なんというかやっぱりC調としかいいようがない。
なんたって操縦士が新谷だものなあ。
戦争の悲惨さ的にはやっぱり仲間から囮に使われてしまっても全然気づかない三人組という点でしょうか。それでいて敵の送り狼を基地につれていくのは阻止して、自分たちの命を懸けて無関係な方角へ敵を誘導する。全体的にあっけらかんとしているんだよね。

ごく普通のエンタメをやったのか、どうか。次の「黒衣の未亡人」も行ってみればブラックウィドウを描きたかっただけで、ネタとしてあまり悲惨さや戦争のつらさがうかがえない作品ですし、なんとなくそういう気分な時期だったのかもしれません。

ということで、次もあまり悲惨にならない「黒衣の未亡人」だ。
Read Leiji now!

  

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