グリーンスナイパー ー緑の狙撃兵ー

四式自動小銃 帝国陸軍

概要

初出

『週刊少年サンデー』1973年41号

作中日時

1944年

ちなみに史実のケ号作戦(ガダルカナル撤退戦)は1943年2月。

関連場所

ガダルカナル島北端

登場人物

ブラックトリガー(コールサイン?)
ライマン
ウォーカー軍曹
松井
野山二等兵
竹林二等兵
山越二等兵

登場兵器

M1928A1トンプソン短機関銃
三八式小銃
三八式狙撃銃
四式自動小銃
M1ガーランド狙撃銃

あらすじ

ガダルカナル島の密林。一人の日本兵が密林中を匍匐前進していた。これを伝令と確認し、無線連絡を受けて待ち伏せしていたブラックトリガーとライマンは油断していた日本兵を攻撃する。
倒れた日本兵から命令書を探している最中、突然ライマンが被弾し倒れる。
ブラックトリガーも攻撃元を探っている間に被弾し戦死する。

被弾し倒れたまま動けない日本兵のもとへ現れる狙撃兵の野山二等兵。
伝令は「装備改変だ。大隊司令部に戻れ」と伝える。詳細を確認しようとする野山だが、「チビに…」「チビに…」と子供の写真を見て繰り返しながら伝令は息絶える。戦死した伝令を丁寧に葬る野山。

密林の中を米兵の捜索隊がブラックトリガーを捜索に現れる。捜索隊の中のウォーカーは戦死したライマンを発見し「妹の亭主だ、義理の弟なんだ」と狙撃兵に対する復讐を誓う。

大隊司令部に到着した野山だが残っていたのは竹林二等兵と山越二等兵の二名だけ。司令部は既に撤退に移っており、これから駆逐艦で脱出する予定だという。ただし狙撃兵は現状に残置し戦闘を継続。友軍の撤退を支援するようにとの命令を伝えられる野山。

「死ねという事だな」と憤る野山だが、竹林に「俺たちもこの命令を伝えるために残されたんだぜ」といい、彼らに怒りをぶつける無意味を知る。
伝令の松井が伝えた「装備改変」の内容を確認する野山に、竹林は厳重に梱包された包みを渡す。開けてみると新型の狙撃銃だった。大柄な自動小銃に新型の照準眼鏡。

その時、竹林が撃たれる。月明かりのみでウォーカーが狙撃したのだ。反撃する野山だが、まだ四式狙撃銃の調整が終わっていないため、ウォーカーを逃すことになる。

野山は山越に「配置には自分だけが戻るので、海岸へ撤退しろ」というが、山越は帰路の不安があり、野山と同行することにする。

配置に戻って一週間。戦闘も静まり友軍の銃声もしなくなるが、野山は油断しない。山越に故郷の四国の山中で代々猟師の家系だったこと、獲物との戦いをいまの狙撃兵同士の戦闘に例えて語るのだった。都会育ちの山越には理解できなかったが、野山は「山と空と鉄砲と、獲物が友達だったのかなあ」と語る。

見張りを交代した野山が眠っているあいだに、切れてしまった水を汲みに出る山越。そこでウォーカーの分隊と遭遇し、一方的に射撃を受け戦死する。三八式小銃のボルトアクションと半自動銃であるM1ガーランドの火力差を誇るウォーカー。

しかし山越の死体を確認するために近寄った米兵が狙撃を受ける。この敵こそがライマンのかたきと察したウォーカーは狙撃兵の銃が単発の三八式と想定し、分隊全員での同時突撃を敢行する。

連射で火を噴く四式小銃。ウォーカーの分隊は彼一人を残して全滅する。

それぞれ狙撃兵として出自を思い返しながら対峙する野山とウォーカー。ついに二人はお互いの照準環に相手を捉える。「猟師の親友は仕留める獲物か」とつぶやきながら二人は相打ちに終わる。

似た緑色の服を着た狙撃兵が、それぞれのライフルを手に、緑のジャングルに朽ち果てていく。

登場機材

三八式狙撃銃

パイロットハンター」の項で書いた通り、工場で生産された三八式歩兵銃のうち、精度の良いものを抽出して狙撃装備にアップグレードしたものが三八式狙撃銃です。

それまで三八式歩兵銃しか持たされたことがない山越が「一度でいいからいい銃を持ってみたかったんよ」とあこがれるのはやはり照準眼鏡付きというところでしょうか。

四式自動小銃

わたし、銃にはあまり造詣が深くないのでなんなんですが、その昔、初読の頃は、帝国陸軍の小銃と言えば三八式と九九式しか知りませんでした。このお話で四式自動小銃というものを知りましたが、当時は真面目に調べたりもせず。

後にインターネットの時代になり、四式自動小銃というものを調べてみました。史実の四式自動小銃はジャパニーズガーランドと呼ばれるコピーライフルで、帝国海軍が製造し、1945年に制式になった銃だそうです。

ちょっ、マテヨ!これ、海軍の銃なの!?
しかもライセンス料も払ってない完全盗作。まじでか。

製造数180丁弱。
海軍製らしいですが陸軍装備の一覧によく出てきますし、陸軍でもつかわれたんでしょうか。

資料によっては海軍では四式(7.7mmx56R弾)、陸軍では五式(7.7mmx58弾)としているようなものもあります。陸軍の九九式歩兵銃で使うのは九九式普通実包、7.7mmx58弾ですね。

この陸軍版だという「五式」については多く本銃を鹵獲した米国の残存銃にも確認されていないらしく、存在自体の真偽が怪しいんだとか。

ちなみにスミソニアンにある実銃は7.7mmx56R弾だそうです。これは海軍が使ってた7.7mm弾ですね。なぞはふかまった!

といったところが史実の四式自動小銃についてですが…

零士の描いたこの絵、四式自動小銃じゃないよね?

それがむかしから不思議だった所です。への字に折れて後退するルガーっぽい機関部の動きはぜんぜんM1ガーランドじゃない。

今回がんばってぐぐってみたところ、このような情報が。

試製自動小銃丙

零士が描いた「自動小銃」は史実の四式自動小銃のアレンジなどというものではなく、全く違うライフルだったようです。形を見る限りでは試製自動小銃丙。なにそれ!

昭和7~9年頃、四式自動小銃のずっと前に陸軍で自動小銃の試作コンペがあり、その中の甲乙丙の3案のうちの丙。
なにそれ!

四式自動小銃丙

四式自動小銃丙

おう、これじゃないですか!

・試製自動小銃丙号(日特金)
ペダーセン式の機関部(トグルアクション)
5連/10連?の着脱式弾倉を有する。
動画は追記で。
日本軍自動小銃覚え書き(随時更新)

こちらには原型となったペダーセン式ライフルの排莢アクションの動画リンクがありました。

そうよ、この動きなんだよ!機関部がトグルになって排莢するこの動き!

こちらが実際の試作自動小銃丙らしいです。あんのか動画。

 

要するに零士版の自動小銃は史実の四式(あるいは五式)自動小銃とは関係ない、ずっと以前に進められた自動小銃試作プロジェクトで廃案になったライフルを増加試作型自動小銃としてして描いたものだったようです。

知らなかったなあ!みんな、知ってた!?

M1ガーランド狙撃銃

M1ガーランドの狙撃銃版は機関部にスコープがつけられなくて時間がかかったそうです。

そんなわけで、M1ガーランドがいきわたった後も、しばらく単発のM1903A4が狙撃銃として使われたそうです。考えてみりゃ狙撃銃に連射機能なんていらないもんね。

いろいろ

いつですか

ケ号作戦(ガダルカナル撤退作戦)の最中ですから、史実では1943年2月。

ガ島への補給でネズミ輸送の駆逐艦がじゃんじゃん沈められて戦況が悪化したのに、そこにまた駆逐艦を近づけて撤退なんだから大変ですよね。

これは意外にも成功して1万2千人がガ島から撤退できたそうですが(戦病死者2万人)。

しかし冒頭にははっきり「ガダルカナル 1944年」と書かれてるんですよ。これどういうこと?

思うにですね、零士はこのお話では「試作自動小銃で日本軍を侮る米兵をなぎ倒したい!」という願望で描いたんじゃないかと思うのです。

そうすると1943年じゃいくらなんでも自動小銃の配備に無理がある。だから無理を承知で終戦間際に年代をもってきたのじゃないか。

史実を捻じ曲げてでも野山に自動小銃を持たせて、米軍をなぎ倒したかったのじゃないでしょうか。

ハンターは孤独なものだという。だからハンターの友人は自分が倒そうとする獲物だけだといった男もいる

はい。冒頭から主題ですね。

孤独に育った野山ですが、相手のウォーカーも同じハンターでさびしんぼ。
獲物が友人なら、お互いを獲物とする狙撃兵同士が友達だというのは、悲しい理屈であります。

伝令らしい。殺して命令書を奪え。

松井は山越と竹山が待機している大隊司令部から、さらに野山の戦場まで進出してきたもよう。

命令書はたぶんもっていない。口頭で伝えるつもりだったはず。

こいつは装備がいい。後方から来たんだぜ。

何らかの伝令としてきたのなら、その目的地には敵兵がいるはずという推測。必然ですね。
ライマンのいうとおり、周辺には野山がいました。

右目眼帯のウォーカー

ウォーカー登場。
片目ですが、狙撃には問題ないのか。

「回虫」 「大腸菌」

ひでえ合言葉です。

包みから現れる四式自動小銃

だれも「四式自動小銃」という名前は呼びません。どこかに刻印とかあるんじゃないかと思いますが。

実は最後まで作中では「四式自動小銃」という制式名は呼ばれないのです。だからこれを勝手に「四式自動小銃」と思い込んだ読者の方が悪いのかもしれない。

史実では四式しか国産の制式自動小銃がなかったからなんですが。史実の四式自動小銃とは全く違うライフルだったことは冒頭に書いた通り。

考えてみれば、M1ガーランドとジャパニーズガーランドの四式で撃ちあって圧倒、とかちょっとアレですので、この展開が正解だったのでしょう。

いままでの38式狙撃銃の照準眼鏡に比べると、問題にならないくらい明るい

私も長じてカメラおたくになるまでは、「照準眼鏡があかるい」という表現の意味がよく分かってなかったと思います。トーシロが「レンズが明るい」って聞くと、撮れた写真の明るさかと思っちゃいますよね。

開放F値が大きい。すなわちファインダー像自体が明るいということですね。

7.7ミリ99式実包だ

史実の四式自動小銃は、前述のとおり7.7ミリではあっても、九九式小銃が使う九九式実包ではなかったらしいです。

そんなの昭和の時代にはしらんがな!

試製自動小銃甲は6.5ミリらしいですから三八式実包だと思いますが、丙が何ミリだったのかはちょっとわかりません。たぶん時期的には同じ三八式実包じゃなかったかなと思います。

カミンボ岬までは30キロもあるし

史実では、撤退の駆逐艦はエスペランサ岬とカミンボについたそうです。

ここです。ガダルカナル島の北の端。「岬」じゃなくて「湾」になってますが。


史実のケ号作戦では第三八師団の矢野大隊が殿を務めて勇戦したそうなので、野山の所属もこちらだと思います。

結果として想像以上にガダルカナル撤退戦は成功をおさめたそうですが、ガ島へは約3万2000名が上陸し1万名が撤退に成功って、これ、成功というようなものなのか。

カミンボからの撤退はこちらの駆逐艦が担当したらしいです。

警戒隊:皐月、長月
輸送隊:第16駆逐隊:時津風、雪風、第8駆逐隊:大潮、荒潮

カミンボから30㎞というと、かなり内陸部。
こんなところで遅滞戦闘って、と思わなくもないです。

白骨の山

あっという間に死体が白骨化するジャングル。

配置に戻って一週間

撤退に一週間はかからなかったようなので、この時点で完全に残置決定です。

壺神山という山の中腹の大平村という所

野山が語る彼の実家は四国の山奥にあるそうです。

壺神山

野山二等兵の故郷。四国の壺神山

あるし、壺神山!
マジあるし!

実在の地名なんですよ、野山のふるさと。壺神山の中腹の大平。
ものすごく山奥っぽい。

大平は壺神神社への登り口あたりにあるらしいです。

大平村の道標

大平村の道標

本当に山奥。

壺神山と大平については、こちらに情報がありました。

一等三角点 壺神山(つぼがみさん・970.5m)

動けばこっちの負けだ

パイロットハンター氏も言ってましたが、狙撃兵同士の戦いは先に動いた方が負け。

友だちはいなかったよ

最後に同年代の山越と二人で仲良くなれて、本当によかったなと思う瞬間です。

山越は喫茶店で友達と待ち合わせをしたりして、都会派でリア充っぽいですが、そんな二人がガダルカナルの地獄で一緒になる。

二人無事に帰って欲しかった。

みはりかわろう

うん、と答える野山の笑顔が本当につらい。
初めてできた人間の友達なんだよ。うれしいんだよ。

1873年型のアメリカ製スプリングフィールド銃

スプリングフィールドM1873。

スプリングフィールドM1873

スプリングフィールドM1873

配備期間は1873年~1892年。

野山が使っただろう時期は1930年代後半でしょうから、40年オチくらいの銃でしたか。
村田銃と同じく、単発式だそうです。

地図に銃剣

一人でこっそり水くみに出る山越は、手榴弾に並べた地図に銃剣を指していきますが、これは何かの合図なのか。昔から疑問に思っているのですが、帝国陸軍のサインなんでしょうか。

着剣して突撃する米兵を連射でなぎはらう野山

ヴォン
ヴォン
ヴォン
ヴォン
ヴォン

「YEOOOO!」と着剣して(着剣して!)突撃してくるウォーカーの歩兵分隊を5発の連射で片付ける野山。この作品のハイライトだと思います。

もしかすると、このワンカットを描くためだけに、ケ号作戦の日時を改変してまで自動小銃を野山に持たせたかったんじゃないかと思うくらい印象強い一コマ。

さんざんやられたであろう「M1ガーランドに掃射されるバンザイ突撃」を逆にやり返すカット。
なんだか零士の思い入れが感じられる展開です。

10日も凍えながら待ったぜ

ピューマを追って10日間。すげぇガキです、ウォーカー。
親が行方不明で届け出するレヴェル。

まとめ

パイロットハンター」に続く狙撃兵もの。「パイロットハンター」は凄腕狙撃兵が地上に降りた陸戦では無能なP相手に無双する狙撃兵バンザイまんがでしたが(おい)、こちらはプロの狙撃兵同士の対戦。息詰まる戦いです。

ずっと「四式自動小銃」だと思っていた野山の狙撃銃が、アレンジとか零士改どころじゃなくて、元からぜんぜん別のライフルだったことには、本当に驚きましたねえ。読み返してよかった。

戦場で同年代の山越と初めて友情を結ぶいままで孤独だった野山。その山越も戦死し、また一人に戻り、同じ狙撃兵との対決で迎える結末。

ふたりの狙撃兵は「ハンターの友人は仕留める獲物だけ」とお互いにその友情の弾丸をたたきつけて相打ちになります。戦う必要もないのに、お互いを友人になりうる存在と気が付いているのに、それでも戦士であり、ハンターであるから戦いをやめられない。悲しい結末でした。

うーん、野山とウォーカー、二人が仲良くなって一緒に猟に出てる所、見たいなあ。

スナイパーものに外れなし!

次回も名作中の名作。ハーロック初登場の「スタンレーの魔女」だー!

Read Leiji now!

コメント

タイトルとURLをコピーしました