独立重機関銃隊

92式重機を構える兵士 帝国陸軍

概要

初出

『週刊少年サンデー』1973年28号

作中日時

不明。
1944年春~秋??

関連場所

ニューギニア・バガヤン峡谷。位置不明。
ニューギニア島北部山脈地方と推測。

登場人物

島田軍曹
斉藤上等兵
原田上等兵
従軍看護婦
ジョー

登場兵器

九二式重機関銃
F4Uコルセア
マークII手榴弾
軽機関銃
M1ガーランド狙撃銃
M9バズーカ
火炎放射器

あらすじ

ニューギニア・バガヤン峡谷。

撤退した師団司令部後の洞窟陣地に3名の帝国陸軍兵士が九二式重機関銃を据えて立てこもっていた。

米軍は下の谷間を何とかして前進しようと何度も攻撃を仕掛けてくるが、十分な弾薬を持つ重機関銃隊はそのたびに攻撃を阻止し続ける。

近接支援にF4Uが何度も現れるが、洞窟陣地は上部を巨大な岩盤に守られており不落。逆に対空射撃でF4Uも撃墜する。

航空攻撃に気を取られている間に、近づいた米兵が手榴弾を投げ込むが、とっさに島田軍曹が手榴弾投棄穴に投げ込み窮地を逃れる。しかしその時の破片で、水タンクを破壊される。

陣地の外には出るなと釘を刺す島田軍曹の目を盗み、斉藤上等兵は洞窟上の泉に水を汲みに陣地をでるが、そこでうずくまっている従軍看護婦を発見し救出する。その際に向かいの稜線から米兵に発見され攻撃を受けるが、軽機を担いで登ってきた島田軍曹の支援でなんとか陣地に戻る。重機で米軍に応戦する島田軍曹だが、谷間を前進した米軍は手榴弾を投げ込み、軍曹は重機のトリガーを押したままの両手首を残し、全身をばらばらに吹き飛ばされ戦死する。

斉藤と原田は救出した従軍看護婦が金髪女性であることを確認。看護婦は「混血である」と説明する。

翌朝、再度攻撃を行う米軍。島田軍曹を欠く重機関銃隊は手薄となり、バズーカ砲の集中攻撃を受け、看護婦と斉藤が被弾。原田も狙撃兵に額を打ち抜かれる。

死にゆく斉藤に看護婦は故郷の子守歌を歌って聞かせるが、米軍はそこに火炎放射器で攻撃をかけ、陣地ごと焼き払う。

陣地を確認する米軍兵士は磨き抜かれた九二式重機を発見するのだった。

登場兵器

九二式重機関銃

メインメカ。
7.7ミリ九二式実包を使用。
米軍の最高傑作、フィフティキャルこと12.7ミリM2重機関銃にくらべてどうかというと。
九二式重機関銃M2
弾薬7.7mm九二式実包12.7x99mm NATO弾
重量27.6 kg(本体のみ)
55.3 kg(三脚架含む)
38.1kg(本体)
58.0kg(三脚架含む)
発射速度450発/分485-635発/分
銃口初速度732m/s887.1m/s
射程880m2000m

こんな違いです。
重機と言えばM2と、秋本治の「平和への弾痕」で刷り込まれちゃった感じがあります。これ79年だったらしいですが、本作の方を先に読んだはずなのにM2の方が重機イメージ強いよ。九二式重機だと冷蔵庫ごとぶち抜くような力強さはみえないので、
運用を調べてみましたが、

九二式重機関銃は、本銃1挺を装備する「戦銃分隊(定数:下士官1名、10名、2頭)」と「弾薬分隊(定数:下士官1名、兵10名、馬8頭)で運用する。4個戦銃分隊と1個弾薬分隊で1個小隊編成し、3個小隊で1個「機関銃中隊」となる(1個歩兵大隊につき、1個機関銃中隊が配置される)。そのため1個歩兵小隊に対し九二式重機関銃1挺配備に相当する。

重機の運用人員が多いことを見て非能率と見る向きもあるが、戦銃分隊には1箱540発入りの甲弾薬箱(22kg)を担ぐ弾薬手4人が随伴(計2,160発)し、弾薬分隊は定数通り馬8頭が運ぶなら750発入りの乙弾薬箱(30kg)32箱を駄載して計24,000発を運ぶ。合計で1挺あたりの弾薬定数は9,660発、同じく第二次世界大戦ドイツ陸軍が運用したMG34 機関銃の弾薬定数が機関銃分隊に随伴する弾薬手2名が250発入り4箱で計1,000発、1挺あたりの弾薬定数が3,450発であったことなどと比べると1挺あたりの携行弾数は他国に比較して非常に多い。そのため帝国陸軍の重機関銃は特に攻撃戦時の継戦能力が高いのを特徴とする。

故障が少なかったと言われているが、これはあまりに故障の多い従来の機関銃と比較しての話であり、完動状態を維持するためには頻繁なメンテナンスが必要不可欠であり、このため、戦銃分隊の9番目と10番目の兵は20kgもある乙道具箱2箱と予備銃身などの交換部品を常時持ち歩いて随伴することが規定の編制であったほどである。他国では40kg以上ものメンテナンスキットが1挺ごとに随伴する銃器という事例はない、通常はこれほどの道具は後方にいる連隊附の火器整備小隊が持つものである。

92式重機関銃

作中で出会う従軍看護婦は「弾薬小隊所属の従軍看護婦です!」と言ってます。

小隊と分隊の表記の違いはありますが、零士は正しい。重機関銃隊は戦銃分隊と弾薬分隊で構成されているのです。

だから弾薬小隊が連れていた看護婦が近くにいたのは、ぜんぜんおかしくないんです。

元々弾数多いんですね

独立重機関銃隊は豊富な弾薬を以て洞窟に立てこもっています。
あの様子だと、弾薬分隊が装備放棄していったのを使ってるのかもしれない。まるごと独り占めしているなら26000発くらいはあるわけで、そりゃあ弾ならいくらでもある、という感じだよね。
帝国陸軍は日露戦争でロシアの機関銃に撃ちまくられて痛い思いをしていますから、重機の弾丸は豊富に用意しているようです。

F4U

F4Uコルセアは米海兵航空隊と海軍航空隊で使用されましたが、ナパームの項にある通り、作中に登場する機体はおそらく海兵隊所属かと思われます。占領したフィンシハーフェンとかラエあたりから作戦していたのでしょうか。

空母ではない気がします。ニューギニアのF4Uというと、ヤシの木の生えてる基地っぽいイメージがあります。ロケット弾とか積んでる感じ。

本作に登場するF4Uはセンターにタンク、両翼にナパーム弾を搭載して支援に飛来しますが、ナパーム弾を逆ガル翼の一番低いところに搭載しています。

そこ、主脚があるところだから!爆弾積めないところだから!

F4Uコルセア

F4Uコルセア

でもかっこいいからいいですw

ちなみにコルセアの逆ガル翼は、大馬力を受け止めるプロペラを大径にするとAoAが大きくなり、主脚も長くなっちゃうので、それをみじかめるためにああいう風に折れ曲がっているんだと聞いたことがあります。

航空機設計には、なんにでも理由があるって言うことで。

軽機

なんだろう。陣地の中にあったようです。
九六式軽機関銃かなあ。重量は10㎏だそうです。
チョイと担いで崖を登るくらいはできそう。

M1ガーランド狙撃銃

米狙撃兵が「黄色いサルは何匹だ」と言いながらボルトを引いてるシーンがあります。それをみて、どんなふうに装填すんのかなーと思いましたが、探したらモデルガンによる動画がありました。

なんかもうね、作中で零士が描いてるM1ガーランド狙撃銃の装填シーン。本物と全く同じです。びっくりですよ。

零士画のM1狙撃銃、スコープも左にオフセットしてあって、M1ガーランド狙撃銃の実銃そのままです。いやあ、どうやって描いたのかなあ。ぜひ比べてみてください。

しかしこの動画のモデルガン、最後にクリップが飛ぶんでチーンと鳴るところまで再現されてて、新谷師匠の「戦場ロマン」で描かれてた「便利すぎてアホな機構」てのがよくわかります。なんでしたっけ?「風の十字架」?

戦場ロマンの新谷師匠もM1ガーランドに関しては零士と共通の資料を見て描いたのかもしれませんね。

バズーカ

大戦中に使われたバズーカは何種類かありますが、この話に出てくるのは3.5インチの子のでかい方に見えますね。

米兵とバズーカ

米兵とバズーカ

でもこれ朝鮮戦争の時に写真だし、ニューギニアで使われたのは実際は細い方のバズーカだったんじゃないかと想像します。
一般人が想像するより、バズーカって細いんですよ。覚えておいてよ黒田総裁。

火炎放射器

ひじんどうてき!
でも新兵器ってわけではなくて、WWIの頃から使われてる兵器です。
「インフェルノナパーム」なんていう兵器も一部では描かれましたが、ナパームとも共通する基盤のある兵器。

SF読みとしては、火炎放射器が一番活躍したお話は、西村寿行の「滅びの笛」だと思います。「ゲル化剤」という言葉を知ったのもこの作品。ぼくは田辺節雄のコミック版です。

洞窟なんかに放射すると、熱もそうですが、酸欠でやられそうですね。

誰が考えるんだよこんなやべぇもん。

いろいろ

どこなのかな

バガヤン渓谷ってどこなの?気になりますね。調べてみましょう。
バガヤン渓谷の場所は、調査しましたがわかりませんでした。
いかがでしたか?
と言ってもしょうがないので、いろいろ妄想してみます。根拠はないけど、あくまでもイメージとして、ね。
ちなみにフィリピンのルソン島北部に「カガヤン」渓谷という場所はありました。インドにはバガヤンという地名があるようです。でもたぶんどっちも関係ないです。
ニューギニア戦線に関連する地名っては以下のようなかんじです。
頭に入れましょう。

ニューギニア戦線を振り返る

独立重機関銃隊の戦場を妄想するのならば、まずはニューギニアの戦いがどのようなものだったかをひもとく必要があります。
ニューギニアの戦いは元々米豪分断作戦の一環で、ポートモレスビーを占領しオーストラリアを連合国から脱落させるという戦略目的から始まっています。
ラバウルからみんな大好きオーエン・スタンレー山脈を越えてポートモレスビーへ空襲を繰り返しますが、珊瑚海海戦でうっかり痛み分けになってしまったために制海権が取れず、海からの上陸作戦による攻略は断念。今度は陸軍が北支から大量の師団を転用して、ブナから陸路スタンレー山脈を超えてポートモレスビーに向かいます。
あともう数十キロというところまで前進したところでいつものように補給切れで撤収。米軍が押し寄せたガダルカナル島に補給が回っちゃったんですね。
転進した部隊はいろいろあって冬の山中を凍えながらスタンレー山脈を超えてラエまで後退します。ここからがたいへん。
ラエもオーストラリア軍に圧迫されて島の北方、ウエワクを目指して転進しますが、ここもサワラケットという富士山より高い山の山脈を越えて莫大な損害を出しながら回り道。
山を抜けてニューギニア北岸のマダンについても今度は海側から米軍におされて、ウェワクへ向かう。こちら北岸の海岸線は米軍が抑えているのでまたまたニューギニア中央の峻険な山の中を迂回です。
なんとかウェワクについてさあ連合軍迎撃となりますが、飛び石作戦でとばされてしまって遊兵化。補給も切られ、ウェワクを拠点に散発的に攻撃を仕掛ける程度で終戦前に降伏して一巻の終わり。雑に言うとだいたいこんなかんじです。

どのあたりだとイメージに適うのか

この流れを考えると、物語の舞台はブナ-ポートモレスビーという機動戦の中という感じはしなくて、ウエワクに落ち着いた後の戦闘の様な気がします。転進に転進を繰り返していますから、洞窟に師団司令部を構えてるような余裕もありませんしね。ということでウェワクでの遊撃戦中の話かなという気がします。
時期的に考えると、冬で凍えてる描写はないですから、1944年の春から秋くらいじゃないでしょうか。そうするとやっぱりウェワク近辺と想定したくなります。
軍曹は満州から撃ちまくっているということなので、歴史のある師団に所属しているようですが、大陸から転用された師団はたくさんあってこの情報だけではあまり参考にはなりません。
従軍看護婦は現地徴用でしょうから、日本人の住む町があったところから来たのでしょう。そういう移民の歴史があるのはラエとかマダンらしいです。
それから敵は米軍。オーストラリア軍じゃないので、やっぱり北の方の戦域だと思います。それで険しい峡谷があるところですね。
支援にF-4Uがいっぱい来ますから、きっと米海軍ないし海兵隊の航空支援が受けやすいところ。

そういったことを考え合わせると、わたしはやっぱりウェワク南方の山間部じゃないかという気がします。米軍はオーストラリア軍との連携をとるためにこのバガヤン渓谷を打通する必要があったんじゃないんでしょうか。

まあしょせん妄想なんで勘弁してください。零士に正解を聞くわけにもいきませんからね。

ニューギニア戦線のスケール感

戦域全体のスケール感はこんなかんじ。
ニューギニア戦線のスケール感

ニューギニア戦線のスケール感

ラバウル航空戦を描く戦記や架想戦記を読むと、ラバウル、ブカ、ブナ、ラエ、ウエワクとかそういう地名がよく出るじゃないですか。この機会にソロモン海の土地勘をつけましょう。この辺を頭に入れてから「ラバ空」とか読むといいよ。
「スタンレーの魔女」の予習として書いとくと、ラバウルからポートモレスビーを空襲ならば、函館から東京を爆撃しに行く感じ。ブナからポートモレスビーへの陸路ですと、水戸から都内へ進撃するくらいの距離感ですね。

ポートモレスビーからウェワクまで転進というのは、東京から下関あたりまで逃げていくくらいのスケールですね。しかも歩いてか、これ。大変だったなあ。

重機の歴史

「中国大陸からビルマ、フィリピンと転戦してきた重機だ」
5、600人殺してきた重機。
機関銃で景気よく弾をばらまくと大量殺戮できそうですが、戦場で放たれる弾丸のほとんどは相手には当たらないそうです。戦死者はたいてい爆弾や砲弾の破片などで発生するらしいですね。
そんなか、これだけの人数を殺してきた重機。超命中力です。
前述したとおり、九二式重機は壊れやすくはあったようですが、メンテナンスのSSTやパーツは潤沢に持って歩いていたらしいですから、大事にされてきたのでしょうね。
三八式機関銃→三年式重機→九二式重機
三八式と言えば、ゴールデンカムイに有坂成蔵がもってくるやつじゃないですか。
帝国陸軍の全ての国産重機を撃ちまくってきた島田軍曹です。歴戦の射手。

弾丸豊富

すごく弾丸を持ってる。
「パイロットハンター」もですが、弾一杯あると幸せな気持ちですね。

急降下してナパームをぶち込め

コルセアから投下されます。
「ナパーム」がいつから使用されたかというと1944年からだそうですが、ぐぐってみるとこんなことが。
ナパーム弾の元となった兵器が使用された戦争
1944年7月17日、フランス西部サン=ロー近くのクタンスで、アメリカ軍P-38 ライトニング により、最初に使用される。太平洋戦争では、アメリカ海兵隊戦闘機により、ビアク島の戦いで最初に使用。
第二次世界大戦では、アメリカ陸軍中国大陸武漢への空襲(漢口大空襲[4]日本列島への空襲日本本土空襲)に、大日本帝国の木造家屋を研究した焼夷弾である「M69焼夷弾」を使用。
沖縄戦において、洞窟に立て篭もった日本軍兵士を炙り出す目的で、ナパーム剤を混ぜた火炎放射器を使用。
なんと、ニューギニアで海兵隊が…。
ということはあの飛来してくるF4Uも、海軍ではなく海兵隊所属の機体だったと思われます。

しなる保弾板

九二式重機はベルト給弾ではなく、保弾板で装填します。「一連30発」は史実も島田軍曹の言う通り。

装填された保弾板が弾丸の重さで下に撓む様子はしびれるカッコよさ。

でもこの保弾板がぺらぺらでしなっちゃうのは現場では問題にされてたらしい。

対空射撃

地上から撃ち上げの7.7ミリでコルセアが落ちるか!という気もしなくもないですがw
歩兵操典において、地上部隊の脅威となる敵航空機に対しては専用の高射砲高射機関砲を運用する高射砲兵・機関砲兵に限らず、野戦では歩兵も小銃・軽機関銃・重機関銃をもって全力で対空射撃(九九式短小銃#対空射撃)にあたるものとされていた。そのため本銃は附属の九二式重機関銃高射用具を用い、三脚上に高射托架を組み銃を装着、また対空用の照準環(高射照門)(スパイダーサイト)を付し対空射撃を行う。
帝国陸軍では、重機を積極的に空に向けていたような記述もありました。

MK2手榴弾

パイナップルアーミー!

手榴弾

パイナップルアーミー!

なぜパイナップルのようにしましまがあるかというと、ここが割れ目になっていて、爆発するとそれぞれのかけらが破片となって飛び散り危害を加えるのですね。
時限信管は4、5秒くらい。

手榴弾廃棄穴

手榴弾を投げ込まれたときの対応方法は以下の通り。
可能な対処方法は一般に「投げ返す(蹴っても可)」、「処理用の穴に放り込む」、「覆い被さる」の3つである。
手榴弾投げ込まれたときには、英雄的な人がお腹に抱え込んだりとか壮絶なことになりがちですが、ここでは深い穴に放り込む手口。
洞窟の岩盤に一体どうやってこんなに細くて深い穴を掘ったのかとか、何度も使える穴なのかとか気になることたくさん。

従軍看護婦

零士の戦場まんがにはよく従軍看護婦が出てくる。でも医療活動はぜんぜんしないんだ。思うにこれらの描写、本当に従軍看護婦の話だったのかどうかと思うことがある。ぶっちゃけると、従軍慰安婦のメタファーだったのじゃないかと邪推するのだ。
零士作品に出てくる従軍看護婦はたいていは戦地で帝国陸軍の兵士に遭遇し、助けてもらったりいろいろな偶然の過去なんかを共有したりする経過を経て体を与えることが多いのだが、その体を以て兵士を安らがせるという意味では、キャラクターの用法として完全に従軍慰安婦といってよい。
南方の慰安所には現地採用の慰安婦もいたみたいだし、混血の慰安婦なんかは重宝されたと聞く。であるので、このメーテルっぽい従軍看護婦も本当は従軍慰安婦だったのじゃないかと思うのだ。それは性的なんとかかんとかとかだと今ならうるさいのかもしれないが、作品が書かれたのは昭和時代のことですしね。しかも具体的にはそう書いてあるわけじゃなくて、私がそう邪推しているだけなので勘弁してください。

この「独立重機関銃隊」の女性についても、零士が従軍慰安婦を従軍看護婦に仮託して描いたのか、もともと従軍慰安婦である彼女が作中で若い兵士たちに出会って「従軍看護婦」と虚言をしたのかはわからない。でもなんだか全体的に生きる気力が希薄で、投げやりな雰囲気がみえるじゃないですか。人の命を救う看護婦というかんじはあまりしないんですね。そもそも普通はいきなり脱いだりしないだろ、とも思いますし。
(救出された時、赤十字のカバンは持っているのでうがちすぎな見方なんでしょうけど)

零士作品の中に次々に出てくる「従軍看護婦」を見る度に、私はついつい、そういう疑念を持ってみることをやめられないのです。
本当はどんな心境だったのか、いちどこっそり本人に一度聞いてみたいと思ったりもしましたが、もうその機会はないのです。

独立重機関銃隊

重機関銃は歩兵小隊付属のもので、重機単体で活動することはないので、「独立重機関銃隊」はそういう部隊があったわけではないです。
重機と取り残された3名の兵士が自嘲的に自称した部隊名なのではないかと想像します。
しかしもうとにかく、トビラのロゴがかっこいいのだ。

独立機関銃隊未だ射撃中

「独立重機関銃隊」という呼び方には元ネタがあって、多分これだと思います。
「独立機関銃隊未だ射撃中」
トーチカに立てこもった5人の兵士が重機を撃ち続ける戦記映画。
これが多分元ネタなんだろうなあ。こちらはソ満国境の話ですが。
昔からタイトルだけは知ってるんだけど内容は未見。
兵士の体が吹っ飛ぶシーンもあるそうですし、他にも零士のネタ元がたくさん入ってたりして。

このオサーン

それにしてもWikipediaに出てた九二式重機を構えるこのおっさん。島田軍曹その人じゃねえの?

有名な一枚なのかしら。だとしたら、零士がこの写真を見て島田軍曹を創造した可能性もあるかと思います。

92式重機を構える兵士

92式重機を構える兵士

これだけ言いたかったw

水をくみに

戦場まんがにおける陸軍兵士の死亡フラグですなあ。

「グリーンスナイパー」でもやっぱり水を汲みに行った仲間が敵の狙撃兵に撃たれるシーンがあります。

押し金

九二式重機は引き金ではなく押し金です。

吹っ飛ばされた島田軍曹の指が押し込んでいるのが押し金です。

おれのライフルも俺が死んだあとこんなに光っているんだろうか。

ザ・主題。

この作品を形成する一番大事な零士の提示する主張。ここが一番大事なところだと思います。後に「天使の徹甲弾」にも出てくる繰り返されるモチーフです。道具とそれをいつくしんだ「私」との関係性のお話。

「私」がいなくなる時、この「道具」もまたその使命を終え、その命を終わらせる。機械式腕時計だとねじを巻く「私」がいなくなった時、最後に巻いたネジがとけて時計が止まった時、その時計も死ぬのだという感慨。

松本零士がかの零士メーターとも呼ばれたブライトリングのナビタイマー好きだったのは有名です。手巻きのヴィーナスが入った古い二つ目のナビタイマーをよく描きますよね。巻く人がいなくなった時、ぜんまいがとけきるとそこでその時計は止まって死ぬ。人は道具とともにあり、道具はまた人とともにあって、その命を輝かせるのです。

簡単で当たり前のことですが、人生のはかなさとそれでも「生きていくこと」自体に意味があるのだという強い主張なのだ思います。

そう思ってわたしも自分のオールドナビタイマーを磨くのです。

まとめ

ニューギニア戦線のこと、あまり真面目に考えたことがなかったので、今回は大変勉強になりました。ポートモレスビー攻略に失敗してからウエワクまでの転進の繰り返し、本当に厳しい戦いです。「ほー」とか「へー」とか言いながら書いていたら、かなり散漫な記事になってしまいました。すまぬ。

作品自体は色々と見どころのあるお話。いつもは補給で苦しむ帝国陸軍ですが、十分な食料、弾薬を持って最高の場所に立てこもり、空陸から攻める米軍を長期間足止めする、その重機関銃隊3人のかっこよさ!

最後に思わぬ経緯から鉄壁の守備が敗れていきますが、最後まで抗い続ける兵士たち。そして残される磨き込まれた九二式重機。

人は去っても道具は残る。しかし道具を愛しんだ持ち主がいなくなった時、残された道具はその価値を失い、ただ磨き込まれたその姿を後世に伝えるだけです。

道具にこだわる松本零士の大事なテーマを描いた作品だと思います。

さて、次回はたまにでてくるC調作品のひとつ、「晴天365日」ですよーん。気楽に読もうぜw

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