概要
初出
作中日時
関連場所
ニューギニア島北部山脈地方と推測。
登場人物
斉藤上等兵
原田上等兵
従軍看護婦
ジョー
登場兵器
F4Uコルセア
マークII手榴弾
軽機関銃
M1ガーランド狙撃銃
M9バズーカ
火炎放射器
あらすじ
ニューギニア・バガヤン峡谷。
撤退した師団司令部後の洞窟陣地に3名の帝国陸軍兵士が九二式重機関銃を据えて立てこもっていた。
米軍は下の谷間を何とかして前進しようと何度も攻撃を仕掛けてくるが、十分な弾薬を持つ重機関銃隊はそのたびに攻撃を阻止し続ける。
近接支援にF4Uが何度も現れるが、洞窟陣地は上部を巨大な岩盤に守られており不落。逆に対空射撃でF4Uも撃墜する。
航空攻撃に気を取られている間に、近づいた米兵が手榴弾を投げ込むが、とっさに島田軍曹が手榴弾投棄穴に投げ込み窮地を逃れる。しかしその時の破片で、水タンクを破壊される。
陣地の外には出るなと釘を刺す島田軍曹の目を盗み、斉藤上等兵は洞窟上の泉に水を汲みに陣地をでるが、そこでうずくまっている従軍看護婦を発見し救出する。その際に向かいの稜線から米兵に発見され攻撃を受けるが、軽機を担いで登ってきた島田軍曹の支援でなんとか陣地に戻る。重機で米軍に応戦する島田軍曹だが、谷間を前進した米軍は手榴弾を投げ込み、軍曹は重機のトリガーを押したままの両手首を残し、全身をばらばらに吹き飛ばされ戦死する。
斉藤と原田は救出した従軍看護婦が金髪女性であることを確認。看護婦は「混血である」と説明する。
翌朝、再度攻撃を行う米軍。島田軍曹を欠く重機関銃隊は手薄となり、バズーカ砲の集中攻撃を受け、看護婦と斉藤が被弾。原田も狙撃兵に額を打ち抜かれる。
死にゆく斉藤に看護婦は故郷の子守歌を歌って聞かせるが、米軍はそこに火炎放射器で攻撃をかけ、陣地ごと焼き払う。
陣地を確認する米軍兵士は磨き抜かれた九二式重機を発見するのだった。
登場兵器
九二式重機関銃
九二式重機関銃 | M2 | |
---|---|---|
弾薬 | 7.7mm九二式実包 | 12.7x99mm NATO弾 |
重量 | 27.6 kg(本体のみ) 55.3 kg(三脚架含む) | 38.1kg(本体) 58.0kg(三脚架含む) |
発射速度 | 450発/分 | 485-635発/分 |
銃口初速度 | 732m/s | 887.1m/s |
射程 | 880m | 2000m |
九二式重機関銃は、本銃1挺を装備する「戦銃分隊(定数:下士官1名、兵10名、馬2頭)」と「弾薬分隊(定数:下士官1名、兵10名、馬8頭)で運用する。4個戦銃分隊と1個弾薬分隊で1個小隊を編成し、3個小隊で1個「機関銃中隊」となる(1個歩兵大隊につき、1個機関銃中隊が配置される)。そのため1個歩兵小隊に対し九二式重機関銃1挺配備に相当する。
重機の運用人員が多いことを見て非能率と見る向きもあるが、戦銃分隊には1箱540発入りの甲弾薬箱(22kg)を担ぐ弾薬手4人が随伴(計2,160発)し、弾薬分隊は定数通り馬8頭が運ぶなら750発入りの乙弾薬箱(30kg)32箱を駄載して計24,000発を運ぶ。合計で1挺あたりの弾薬定数は9,660発、同じく第二次世界大戦でドイツ陸軍が運用したMG34 機関銃の弾薬定数が機関銃分隊に随伴する弾薬手2名が250発入り4箱で計1,000発、1挺あたりの弾薬定数が3,450発であったことなどと比べると1挺あたりの携行弾数は他国に比較して非常に多い。そのため帝国陸軍の重機関銃は特に攻撃戦時の継戦能力が高いのを特徴とする。
故障が少なかったと言われているが、これはあまりに故障の多い従来の機関銃と比較しての話であり、完動状態を維持するためには頻繁なメンテナンスが必要不可欠であり、このため、戦銃分隊の9番目と10番目の兵は20kgもある乙道具箱2箱と予備銃身などの交換部品を常時持ち歩いて随伴することが規定の編制であったほどである。他国では40kg以上ものメンテナンスキットが1挺ごとに随伴する銃器という事例はない、通常はこれほどの道具は後方にいる連隊附の火器整備小隊が持つものである。
小隊と分隊の表記の違いはありますが、零士は正しい。重機関銃隊は戦銃分隊と弾薬分隊で構成されているのです。
だから弾薬小隊が連れていた看護婦が近くにいたのは、ぜんぜんおかしくないんです。
元々弾数多いんですね
F4U
F4Uコルセアは米海兵航空隊と海軍航空隊で使用されましたが、ナパームの項にある通り、作中に登場する機体はおそらく海兵隊所属かと思われます。占領したフィンシハーフェンとかラエあたりから作戦していたのでしょうか。
空母ではない気がします。ニューギニアのF4Uというと、ヤシの木の生えてる基地っぽいイメージがあります。ロケット弾とか積んでる感じ。
本作に登場するF4Uはセンターにタンク、両翼にナパーム弾を搭載して支援に飛来しますが、ナパーム弾を逆ガル翼の一番低いところに搭載しています。
そこ、主脚があるところだから!爆弾積めないところだから!
F4Uコルセア
でもかっこいいからいいですw
ちなみにコルセアの逆ガル翼は、大馬力を受け止めるプロペラを大径にするとAoAが大きくなり、主脚も長くなっちゃうので、それをみじかめるためにああいう風に折れ曲がっているんだと聞いたことがあります。
航空機設計には、なんにでも理由があるって言うことで。
軽機
M1ガーランド狙撃銃
なんかもうね、作中で零士が描いてるM1ガーランド狙撃銃の装填シーン。本物と全く同じです。びっくりですよ。
零士画のM1狙撃銃、スコープも左にオフセットしてあって、M1ガーランド狙撃銃の実銃そのままです。いやあ、どうやって描いたのかなあ。ぜひ比べてみてください。
しかしこの動画のモデルガン、最後にクリップが飛ぶんでチーンと鳴るところまで再現されてて、新谷師匠の「戦場ロマン」で描かれてた「便利すぎてアホな機構」てのがよくわかります。なんでしたっけ?「風の十字架」?
戦場ロマンの新谷師匠もM1ガーランドに関しては零士と共通の資料を見て描いたのかもしれませんね。
バズーカ
大戦中に使われたバズーカは何種類かありますが、この話に出てくるのは3.5インチの子のでかい方に見えますね。

米兵とバズーカ
火炎放射器
SF読みとしては、火炎放射器が一番活躍したお話は、西村寿行の「滅びの笛」だと思います。「ゲル化剤」という言葉を知ったのもこの作品。ぼくは田辺節雄のコミック版です。
洞窟なんかに放射すると、熱もそうですが、酸欠でやられそうですね。
誰が考えるんだよこんなやべぇもん。
いろいろ
どこなのかな
いかがでしたか?
ニューギニア戦線を振り返る
あともう数十キロというところまで前進したところでいつものように補給切れで撤収。米軍が押し寄せたガダルカナル島に補給が回っちゃったんですね。
山を抜けてニューギニア北岸のマダンについても今度は海側から米軍におされて、ウェワクへ向かう。こちら北岸の海岸線は米軍が抑えているのでまたまたニューギニア中央の峻険な山の中を迂回です。
なんとかウェワクについてさあ連合軍迎撃となりますが、飛び石作戦でとばされてしまって遊兵化。補給も切られ、ウェワクを拠点に散発的に攻撃を仕掛ける程度で終戦前に降伏して一巻の終わり。雑に言うとだいたいこんなかんじです。
どのあたりだとイメージに適うのか
そういったことを考え合わせると、わたしはやっぱりウェワク南方の山間部じゃないかという気がします。米軍はオーストラリア軍との連携をとるためにこのバガヤン渓谷を打通する必要があったんじゃないんでしょうか。
まあしょせん妄想なんで勘弁してください。零士に正解を聞くわけにもいきませんからね。
ニューギニア戦線のスケール感

ニューギニア戦線のスケール感
ポートモレスビーからウェワクまで転進というのは、東京から下関あたりまで逃げていくくらいのスケールですね。しかも歩いてか、これ。大変だったなあ。
重機の歴史
弾丸豊富
急降下してナパームをぶち込め
ナパーム弾の元となった兵器が使用された戦争
- なんと、ニューギニアで海兵隊が…。
- ということはあの飛来してくるF4Uも、海軍ではなく海兵隊所属の機体だったと思われます。
しなる保弾板
九二式重機はベルト給弾ではなく、保弾板で装填します。「一連30発」は史実も島田軍曹の言う通り。装填された保弾板が弾丸の重さで下に撓む様子はしびれるカッコよさ。
でもこの保弾板がぺらぺらでしなっちゃうのは現場では問題にされてたらしい。
対空射撃
MK2手榴弾

パイナップルアーミー!
手榴弾廃棄穴
可能な対処方法は一般に「投げ返す(蹴っても可)」、「処理用の穴に放り込む」、「覆い被さる」の3つである。
従軍看護婦
この「独立重機関銃隊」の女性についても、零士が従軍慰安婦を従軍看護婦に仮託して描いたのか、もともと従軍慰安婦である彼女が作中で若い兵士たちに出会って「従軍看護婦」と虚言をしたのかはわからない。でもなんだか全体的に生きる気力が希薄で、投げやりな雰囲気がみえるじゃないですか。人の命を救う看護婦というかんじはあまりしないんですね。そもそも普通はいきなり脱いだりしないだろ、とも思いますし。
(救出された時、赤十字のカバンは持っているのでうがちすぎな見方なんでしょうけど)
独立重機関銃隊
重機と取り残された3名の兵士が自嘲的に自称した部隊名なのではないかと想像します。
独立機関銃隊未だ射撃中
これが多分元ネタなんだろうなあ。こちらはソ満国境の話ですが。
兵士の体が吹っ飛ぶシーンもあるそうですし、他にも零士のネタ元がたくさん入ってたりして。
このオサーン
それにしてもWikipediaに出てた九二式重機を構えるこのおっさん。島田軍曹その人じゃねえの?
有名な一枚なのかしら。だとしたら、零士がこの写真を見て島田軍曹を創造した可能性もあるかと思います。

92式重機を構える兵士
これだけ言いたかったw
水をくみに
戦場まんがにおける陸軍兵士の死亡フラグですなあ。
「グリーンスナイパー」でもやっぱり水を汲みに行った仲間が敵の狙撃兵に撃たれるシーンがあります。
押し金
九二式重機は引き金ではなく押し金です。
吹っ飛ばされた島田軍曹の指が押し込んでいるのが押し金です。
おれのライフルも俺が死んだあとこんなに光っているんだろうか。
ザ・主題。
この作品を形成する一番大事な零士の提示する主張。ここが一番大事なところだと思います。後に「天使の徹甲弾」にも出てくる繰り返されるモチーフです。道具とそれをいつくしんだ「私」との関係性のお話。
「私」がいなくなる時、この「道具」もまたその使命を終え、その命を終わらせる。機械式腕時計だとねじを巻く「私」がいなくなった時、最後に巻いたネジがとけて時計が止まった時、その時計も死ぬのだという感慨。
松本零士がかの零士メーターとも呼ばれたブライトリングのナビタイマー好きだったのは有名です。手巻きのヴィーナスが入った古い二つ目のナビタイマーをよく描きますよね。巻く人がいなくなった時、ぜんまいがとけきるとそこでその時計は止まって死ぬ。人は道具とともにあり、道具はまた人とともにあって、その命を輝かせるのです。
簡単で当たり前のことですが、人生のはかなさとそれでも「生きていくこと」自体に意味があるのだという強い主張なのだ思います。
そう思ってわたしも自分のオールドナビタイマーを磨くのです。
まとめ
ニューギニア戦線のこと、あまり真面目に考えたことがなかったので、今回は大変勉強になりました。ポートモレスビー攻略に失敗してからウエワクまでの転進の繰り返し、本当に厳しい戦いです。「ほー」とか「へー」とか言いながら書いていたら、かなり散漫な記事になってしまいました。すまぬ。
作品自体は色々と見どころのあるお話。いつもは補給で苦しむ帝国陸軍ですが、十分な食料、弾薬を持って最高の場所に立てこもり、空陸から攻める米軍を長期間足止めする、その重機関銃隊3人のかっこよさ!
最後に思わぬ経緯から鉄壁の守備が敗れていきますが、最後まで抗い続ける兵士たち。そして残される磨き込まれた九二式重機。
人は去っても道具は残る。しかし道具を愛しんだ持ち主がいなくなった時、残された道具はその価値を失い、ただ磨き込まれたその姿を後世に伝えるだけです。
道具にこだわる松本零士の大事なテーマを描いた作品だと思います。
さて、次回はたまにでてくるC調作品のひとつ、「晴天365日」ですよーん。気楽に読もうぜw
Read Leiji now!
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