THE GOHST ELEPHANT 幽霊軍団

ドイツ軍

概要

初出

『プレイコミック』1969年11月22日号

作中日時

不明。「赤軍がベルリンに突入」という記載より1945年4月23日以降と推測。

関連場所

ベルリン近傍

登場人物

ウエルナー・レステルマイヤー中尉(第98狙撃兵連隊第13大隊第5小隊)
武装SS戦車長
レヤ
レヤ上司
M4乗員

登場兵器

P-47
Me262
M4
Kar98狙撃銃
キング・タイガー(ヘンシェル砲塔)
StG44
M42型柄付き手榴弾
TM29対戦車地雷
エレファント
M36
M114 155mm榴弾砲

あらすじ

敗北直前のドイツ第三帝国。ベルリン市街戦のさなか。

上空ではMe262が最後の上空制圧を行い、P-47を撃墜する。地上のM4戦車長は「もうすこしでおしまいってのに、不運なやつだ」と墜死したパイロットに向かってつぶやく。

その直後、戦車長の眉間が撃ち抜かれる。狙撃兵に撃たれたのだ。車長を引き込んでハッチを閉じ警戒するM4だが、その直後巨大な穴が穿たれ、砲塔ごと吹き飛ばされる。
物陰から姿を現す巨大なキング・タイガー。狙撃兵は戦車を見ると、「あれにかかってはM4では勝ち目はない」と感慨深げにつぶやく。
現れたのは武装親衛隊第503重戦車大隊のキングタイガー。戦車長の誰何に狙撃兵は「第98狙撃兵連隊、第13大隊、第5小隊ウエルナー・レステルマイヤー中尉」と答える。

戦車長は後方への撤退を指示するが、レステルマイヤーは戦車との同行を断る。戦車長はStG44と2本の手榴弾をレステルマイヤーに渡し無事を祈るが、その場から離れた瞬間、地雷を踏んでキングタイガーは大破する。味方の地雷だった。

廃墟と化したベルリンをさすらうレステルマイヤーは敵とも味方とも知れぬ不思議な服装の女性と出会う。ジェット機隊の燃料が切れ、米軍の空襲を受けることとなり、そのレヤと名乗る女性をかばって水路に落ちる二人。レヤは着替えをするために「私の家」へとレステルマイヤーをいざなう。

こんな廃墟に家があるはずはないといぶかるレステルマイヤーだが、レヤが案内したのは、燃料切れで放棄された突撃砲戦車エレファントだった。

レステルマイヤーはレヤに大学では物理の研究をしていること、いつかは月へロケットを飛ばすことが夢だったと語る。水を汲みに外に出たレヤだったが、米兵の集団に発見され暴行を受けそうになる。突撃銃を撃ちまくり救出するレステルマイヤー。彼に向って米兵は「おまえたちもやった、アウシュビッツ…」とつぶやいて息絶えるのだった。

砲弾がまだ残っているエレファントに、レステルマイヤーは近傍で擱座していたM4から燃料を調達する。道すがらナチスの非道について語らう二人。レステルマイヤーもアウシュビッツの事は知っている。レヤはヒロシマ、ナガサキの米軍による原爆投下、1969年のベトナム戦争など、未来に起こる米軍の非道について語る。

燃料を補給し、戦場へ戻るエレファント。レステルマイヤーはたった一人でエレファントを操作しM4を撃破する。3両のM4を破壊したところでM36が投入されるが、これも撃破。
勇戦するエレファントだがついに砲弾が尽き、最後の一発となる。レステルマイヤーはここを死処と決め、脱出も考えず米軍に向かって単騎での突撃を開始する。

たった一両のエレファントに動揺した米軍は砲兵部隊に全力射撃を要請し、エレファントは上面装甲を破壊されついに大破に至る。単騎での突撃が、なぜか米兵には突撃してくる無数のエレファントに見えていたのだ。
未来のどこか。多重深度立体スクリーンを使用した過去への干渉について上司に叱責されるレヤ。レヤは未来の考古学者で研究のために過去へタイムトラベルしていたのだ。
過去の人間は未来の人間が失った感情を持っていた、と主張するレアだが、上司は「非合理的原始本能に過ぎない」と切り捨てる。
死せるエレファントを照らすのは、エレファントとレステルマイヤーが命を懸けて救おうとした祖国が燃える地獄の業火だった。

いろいろ

大戦末期、ベルリン市街戦が舞台。
情報量、多いですねー。

第98狙撃兵連隊第13大隊第5小隊

狙撃兵連隊、なにかなあと思いましたが、当時ベルリンで戦っていたGD師団には狙撃兵連隊がかつてはあったらしいです(ベルリン市街戦時の戦闘序列にはない)。レステルマイヤーもSSぽくないので、きっと国防軍なのでしょう。

当時は自動車化された歩兵を「狙撃兵」と呼んでいたむきもありますが(ソ連の自動車化狙撃師団とかが顕著)、レステルマイヤー中尉はちゃんと照準眼鏡付きの狙撃銃を持ってるれっきとした狙撃兵ですね。
それにしても腕利きの狙撃兵でありながら、ほいほいエレファントも操縦して、しかも一人で車長と砲手と操縦手もやってM4を次々に撃破しちゃうなんて、とんでもないパーフェクトソルジャーだと思います。

ガーランド最後の上空制圧

ずばり、ボーデンプラッテ作戦でしょう、といいたかった。というか子供の頃は完全にそう思ってこの話を読んでいました。ルフトヴァッフェが最後の戦力を投入した攻勢です。
でもよくよく考えると、ボーデンプラッテって作戦は1945年1月なので、「赤軍はベルリンに突入したぜ」というセリフと全く時期が合いません。赤軍がベルリンに突入したのは1945年4月23日。
この時期のガーランドは、みんな大好き最後のエース部隊・JV44で自らMe262を飛ばしていた頃です。でも残念ながらJV44はミュンヘン防衛の任で、南ドイツ方面に展開していたらしいので、ベルリン上空のエアカバーにはくることができません。

それじゃあってんで、ガーランドがJV44の前にいたJG52はどうかと思ったんですが、こちらもこの時期はチェコとオーストリアにいたらしい。ハルトマンやバルクホルン、ギュンター・ラルとか、こちらもウルトラエースぞろいで実に惜しい。

ちなみにハルトマンはガーランドからJV44へのお誘いを受けた時、「そんなエースぞろいの部隊に行ったら、おれロッテリーダーになれないじゃん。ヤダ」と断ったらしいです。すてき、ハルトマン。

ということでこのお話での「ガーランドの戦闘機部隊による最後のエアカバー」というのは完全な創作の様です。残念。

当時のベルリン上空で戦ってた部隊、ちょっとぐぐったくらいじゃわかりませんでした。書籍をあたる必要がありますね。

ケーニヒス・ティーガー

最強の王虎・ケーニヒス・ティーガーが、現れるなり問答無用でM4を吹き飛ばします。
この時期ベルリンにいたティーガーIIと言えば、第503SS重戦車大隊でしょう。
このあとすりつぶされて全滅するまで、押し寄せる連合軍を撃ち続け、西側への脱出を支援し続ける重戦車部隊です。

StG44

シュトルムゲベール。突撃銃ですね。命名は総統閣下らしいです。

のちにアメリカ他で「アサルトライフル」というのが流行しますが、あれ、きっとこのシュトルムゲベールが語源だと思います。

突撃砲・シュトルムゲシュッツもアメリカでは同種車両が「アサルトガン」と命名されたらしいですから、やっぱ米軍もドイツ軍リスペクトというかドイツ軍カッケーのりはあったんだと思います。

それにしてもStG44のスタイル、なにかこう未来からやってきたようなオーパーツ的な洗練がありますよね。始祖にして完成形という感じ。

なんでエレファントいるの?

エレファントというと普通はクルスク戦が思い浮かぶと思いますが、なんでシレっとした顔でベルリンにいたりするんですか。むかしから「なんか変なの」って思ってたんですよ。

ぐぐってみましたら、こんな事実が!

1944年10月になると、第653重戦車駆逐大隊に対してヤークトティーガーへの装備改編命令が出された。これに対し、エレファントを保有している第2中隊は12月には第614重戦車駆逐中隊と改称され、第653重戦車駆逐大隊と別れ、引き続き東部戦線でドイツ軍の後退を支援する事となった[2][5]。第614重戦車駆逐中隊はこの後、1945年4月には最後の4両のエレファントをもってベルリン防衛戦に参戦した[8]
まじか!

まじでベルリンにいたのエレファント?なんでそんなこと知ってるの零士!?

たった4両の稼働エレファント、このうちの一両がレヤがおうちにしていた車両なんですね。そうかー。実話かー。

「幽霊軍団」のエレファントは第614重戦車駆逐中隊所属。
覚えておいてください。

スペック

よし聞け。これがエレファント出撃時に語られるスペックだ。

突撃砲戦車エレファント

砲身長71口径
PaK43/2L71
88ミリ対戦車砲を装備し、その全備重量実に68トン。
マイバッハHL12TR
水冷12気筒370速力ガソリンエンジン2基を搭載し、前面装用200ミリ
いかなる連合軍戦車も一撃で撃滅しうる重戦車…
まさに無敵であった…

零士はたまにこういうスペック紹介してくれるじゃないですか。

今じゃあエレファントなんてその辺の小学生もみんな知ってるけれど、当時は読者が誰も知らないマニアック兵器だったんだよ。その無知なる読者にエレファントのすごさを端的に伝えるこの一コマ。

最高だよ、零士!

重装甲を誇るエレファントも、上面の装甲はわずか30㎜

「上からくる弾丸にゃ弱いぞ」って四式中戦車の土方大佐もいってましたね。

全然関係ないけど

こんな部隊も見つけた。
第653重戦車駆逐大隊第1中隊のエレファント11輌はアンツィオの戦いに参戦するためイタリア戦線へ投入されたが少しずつ消耗。1944年6月にローマ郊外での10時間にわたる戦闘で、生き残りの2輌のエレファントがアメリカ軍戦車50輌を相手に戦い、うち30輌を撃破するなど奮戦したことが記録されているが、月末にはそれらも同戦線より撤収、東部戦線に復帰していた第653重戦車駆逐大隊本部および第2・第3中隊に合流した(この2つの中隊にはティーガー(P)戦車、ベルゲパンターD型にIV号戦車の砲塔を載せた指揮戦車、T-34改造対空戦車といった珍しい車輌が装備されていた)。

なんておもろかしい。

宮さんなんてきっと大喜びだわ。

宮さんっていえばさー

エレファントというと、後に宮さんの「雑想ノート」のなかの「豚の虎」で描かれた、P虎ことポルシェティーガーがまだ採用されてもないのに、気早く先行量産しちゃった90両分が突撃砲として改装されてエレファントになる経緯が「虎へんじて象となる」として描かれたのが有名ですね。

だからこのエレファントもP虎と同じく電動戦車なんだよ(エンジンは換装されてるらしい)。さすがに戦場まんがの頃はそこまでの情報も流通してなかったみたいで、そういった「実はハイブリッド車」っていう部分への言及はない。

やっぱり時代ってものですよね。

つよつよ

とにかく強いんですよ。対戦車戦闘ならどんなのにも負けない。

11月5日、第653重戦車駆逐大隊の戦果報告は、敵戦車582輌、対戦車砲344門、火砲133門、対戦車銃103丁、航空機3機、装甲偵察車3輌、突撃砲3輌に達した。さらに11月25日、2輌のフェルディナントは54輌の敵戦車を撃破した。11月29日の時点で、各車の走行距離は2,000kmを記録し、同隊はオーバーホールのため西方のザンクト・ペルテンへ撤退を命じられた。

エレファント重駆逐戦車

つよすぐる。

こんなのが見渡す限りに出てきたら、そらM4だってパニックになりますよね。

エレファント動画

いろいろと当たっていた最中、エレファントのレストア動画なんてすごいものが公開されているのを発見してしまいました。

ななめ前方から見たショットは、まるっきりレステルマイヤーの進撃シーンです。

刮目してみよ。

M114 155mm榴弾砲

無敵のエレファントを撃破する重砲部隊。零士まんがには米軍の物量の象徴としてよく出てきますね。重砲隊。
米軍にもいろんな野砲があるけれども、零士がよく描くのは見たかんじ、M114 155㎜榴弾砲っぽいですね。車輪と制退機の雰囲気で。

零士絵だと砲身長もすごく長くてカノン砲っぽい感じですが、仰角をあれだけかけてるのはやっぱり榴弾砲でしょう。

零士は「重砲」って表現好きだよね。「重砲隊」とか支援のシーンでよく出てくる。実際は「重砲」なんて砲はなくて(帝国陸軍には「野戦重砲」というジャンルはあった)、直射するカノン砲だったり、曲射弾道の榴弾砲だったり、ようするに「でっかい砲」を「重砲」と呼んでいるのだろう。

こんなのをずらっと並べて米軍の物量を表現するのが零士流。
しかもものすごく密に並べるんだよ。砲撃とか空襲受けたらひとたまりもないはずだけど、かっこいいからいいのだ。

やっぱり本物はあまり近接して配置はしていないですよねw

フォン・ブラウン博士はやるかもしれない

この後もたびたび出てくる宇宙への憧憬。やりますとも。フォン・ブラウン博士。

これもタグ打っとくぞ。
あとでタグを一覧するのが楽しみです。

レヤ上司

最後はSFっぽく締めて終わる作品ですが、レヤの思い入れを全然相手にしないレヤ上司もいい。零士ものにありがちなクールというか、スレた「大人」ですよね。

ああいう人がたびたび出てくるのは、自分が思い入れに支配されないための自戒というか、自己批判のための零士的なリミッターなのかもしれないとおもったりします。

まとめ

冒頭に出てくるティーガーII、かっこいいなあ。「キング・タイガー」という表記ですが。88㎜L71の主砲(これはエレファントと同じ装備)本物より長く描いてある気がします。レステルマイヤーのKar98ごしにみたティーガーIIの砲塔のカット、ちょうしびれる!しかも味方の地雷踏んでやられちゃうじゃないですか。たまに出てくるモチーフですけど、最強無敵だけど味方装備の誤射、誤爆でやられちゃうっていう描写も趣深いですよね。

エレファント、今回たくさん情報を見返しましたが、私はこの「幽霊軍団」で知ったんですよ。兵器大好き少年でしたからタイガー戦車、パンサー戦車、ロンメル戦車(笑)なんかは知っていましたが、「エレファント」なんてツウなものを日本人に知らしめたのは、まずは松本零士だと思うのです。

「アフリカの鉄十字」「成層圏になくセミ」とこの「幽霊軍団」の三作は発表時期もかなり前ですし、掲載誌も青年誌ということで、後に続く戦場まんがとは絵柄もテイストも少し違います。パイロット作品ではあったのかもしれません。その分史実の考証には力が入っている作品だと思います。

むかしはその辺がサンデーっぽくないので(笑)あまり好きではなかった三作ですが、今読み返してみると考察がめっちゃすごい。エル・アラメインにしてもベルリン市街戦にしても、昭和の情報でよくこれだけの作品を描いたな、と感心します。

はい、次回はみんな大好き「パイロットハンター」です。
正座して嫁!

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