概要
初出
『COM』1969年10月号
作中日時
不明。
戦略爆撃迎撃戦のため、おそらく1944年夏。
関連場所
不明
登場人物
ドイツ空軍パイロット
その恋人
TD62僚機パイロット
トラック運転手
M4乗員
登場兵器
FW190A
B-17G
P-47
P-51
M4
あらすじ
大戦末期、FW190Aを駆って連合軍の空襲を迎撃するドイツ空軍パイロット。日々戦闘に明け暮れているが、本来は音楽家で休暇は恋人と共に作曲をして過ごす。
空襲もひどくなり、五線譜も手に入りにくくなる。いよいよ戦争も終盤にかかり、恋人はスイスへと脱出する。一緒に逃げようと言われるが「男のすることじゃない」と断り出撃を続ける。それでも最後の出撃前に恋人は「今度飛んだらスイスに降りて」と言って旅立つ。
僚機と2機編隊に出撃する(冒頭出撃シーン)。B-17を撃墜。P-47の2機編隊と交戦。ともに撃墜するが自らも被弾する。弾薬の補給に基地へ戻る途中、僚機はP-51に襲撃され戦士。反撃し撃墜するが、いよいよ命脈が尽きて自らも墜落しはじめる。そのころ恋人はスイスへの脱出の途に就いていたが、連合軍のM4に誤射され、最後に作曲した楽譜と共に吹き飛ばされる。
主人公は耳鳴りの様な音に悩まされたが、よく見るとそれはキャノピー後ろにとまったセミの鳴き声だった。精一杯鳴き続けるセミの声とともに、地上へと落ちていくFW190A。
いろいろ
作品中で描かれる戦闘は1度ですが、その中で何度か回想シーンが割り込んでいて時系列が複雑に見えます。主人公はちびっこのように見えますが、恋人と並んでいるところは立派な青年で、ちょっとその辺描写が安定していません。
リヒテンシュタインよりTD62防空戦隊へ
地名としてのリヒテンシュタインはドイツの南方にあるリヒテンシュタイン公国、ほとんどスイスですね。迎撃コースであるその「北東」と言えばシュトゥットガルトとかミュンヘンがありますが、こんなところで迎撃戦するもんなの?って気がします。どうもFw190が迎撃戦する場所にはそぐわない気が。
でも彼女さんは「今度飛んだらスイスに降りて」って言ってるからもしかして、という気もしなくはないです。
FuG 202?
もう一つ、「リヒテンシュタイン」で思い浮かぶことはあれだ、レーダーのリヒテンシュタイン。
もしかしてこっちか
FuG 202(エフウーゲー202)とは、第二次世界大戦中にドイツのテレフンケン社で開発された航空機搭載用レーダーであり、主にBf 110やHe219に搭載され、夜間戦闘に利用された。正式名称は「FuG 202 リヒテンシュタイン BC」。
https://ja.wikipedia.org/wiki/FuG202
レーダーを機載したBf110とかHe219がどこかで統制したのかもしれない。コールサインはリヒテンシュタイン。それならわかる。
そうならばベルリンの近くでもいいわけですよ(スイスは遠くなるが)。
しかし機載レーダーで機種までわかるもんかね?
TD62防空戦隊ってなんなんですか
ルフトヴァッフェの戦隊名としては、JGなんとかとかJVなんとかが多くて、TDなんとかというのはちょっと想像しにくい。
そうするとこれ、主人公のロッテのコールサインなんだろうか。ドイツ語の「TD」で何を連想するかってのは難しいんだけど。
こんど飛んだらスイスに降りて
以前から恋人に言われていましたが、やっぱりこれは死亡フラグだなあ。
ハーロックもスイス目指して飛びますし、サウンド・オブ・ミュージックのトラップ一家もスイスを目指しますよね。
いつか行きたい。永世中立国スイス。
すんじまったものはしかたない
司令部に帰ってビフテキでも食おう。
いつでもおおざっぱで無神経なアメ公描写。誤射で人殺してビフテキですよ。松本零士的セレブ人種の日常生活。
ゆるさんぞべーへー!
きいてなかったなあ、きみはなにになるつもりだったのか
出た。2作目にして零士的重要キーフレーズ。
戦場まんがを貫く「この戦争で死んだ若者たちがもしみんな生きていたら、どれほどのことを成し遂げただろう」という零士のテーマ。
みんな生きていたらロケットはもっと早く月に行くし、ディズニーだって失業しちゃうですよ。この後、何度も出てきます。タグ打っときたいぞ(というか打つ)
若者が行くはずだった未来が、どれほど可能性にあふれていたか、だれも知らない…
知るものはあの日歌ったセミだけなんだそうです。
セミとはなにか
やはり7年間土の中に生き、羽化すると2週間歌って繁殖して死んでいくという青春のエッセンスみたいな存在でしょうか。
セミの声なら一般的には「ミーンミーン」なんですが、関東圏で育った私の子供の頃はアブラゼミばかりで、やたらと「ジージー」言ってた記憶があります。
音楽モチーフ
楽譜が飛び散るシーンは「戦場交響曲」でも現れる。芸術家の「アート」が戦争という「愚行」の前に力を持ちえないこと。いや、それでも創作を続けることに価値があるのだというメッセージだと思います。
登場兵器
FW190A
最初のカット、離陸するFW190Aの足がずれて引きこまれるシーン、
岡部せんせも感動している。
零戦とかの工業力貧弱日本戦闘機ですと油圧がパワー不足で、片方に油圧経路をつないで引き上げて、上がったら逆の方に切り替えてあげてたそうで、切り替えレバーなんかもコクピットにあるそうです。
そこはフォッケも同じだったのかな。クルト・タンクなら無理に強力な油圧装置を積むよりは、切り替え式の方が合理的と考える可能性は高い。なんたって軍馬ですからね。
現用のF-15などですと、油圧は全部回っているので主脚を上げると同時に上がります。ずれるとしたら機械的な精度の違いでほんのわずかにずれる程度だそうです。
全然関係ないけど、航空祭にいくと格納庫でウマにかけられた15のコクピットに女性メカが乗り込んで足を上げたりおろしたりして見せてくれるじゃないですか。なんか女性の足をみているようで、私はいつもそこで長い時間目を奪われていて、ブルーの演技が始まるのに出遅れることもあります。ホント関係なくてすみません<m(__)m>
ちなみにFw190は主脚を下す方にはアクチュエータがなくて、重力でおっことすようになってるそうです。パワーかけて下すわけではないので、垂直までは降りない。だからフォッケの主脚は内側に曲がってるし、そのために主脚の軸とタイヤをつなぐフォークがなくてまっすぐなままなんだって。
すごいよね。タンク博士。
FW190は内側引き込みですが、主脚が内側に傾いていますね。
そしてホイールは通常の「曲がったフォーク」ではなく主脚にそのまま取り付けられてる。

その海より深い理由については以下をお読みください。私も知らなかったなあ。
Fw190の主脚は前から見て直角に出きらずに半端な位置で出終わっているのが特徴ですが、これは、無駄に脚の長さを必要とし、(飛行中は意味のない)脚の収容容積が大きくなり、重くなる原因となるのに、なぜこのようなデザインなのでしょうか。
http://www5a.biglobe.ne.jp/~t_miyama/190because.html
零戦はこんな感じ。タイヤが曲がったフォークについていますが、
主脚柱に付いたオレンジ色で表された部品が主脚上部カバ-の、赤で表されたガイドレ-ルにそって動くようになってます。
http://www5a.biglobe.ne.jp/~t_miyama/zeroleg.html
フォッケの主脚はまっすぐなのにこんなわけがあったとはねえ。
フォッケ、足をピンとしろよと思ってましたが、こんな理由だったとは。
ちなみに岡部せんせはこんなこともつぶやいてる。どんだけセミ話、好きなの?
成層圏で戦えますか
成層圏てのは11000m~50000mあたりを言うらしい。WWIIでは「1万メートル」というのはマジックナンバーで、この高度で飛来するB-29を迎撃できるかってのは大問題ですね。でも「1万メートル」は成層圏というにはちょっと低いらしい。残念。
FW190Aで成層圏での戦闘というのはどうなのか。D-9とかD-13なら、あるいはTa152なら納得いくんだけど、A型は中低空が主戦場って印象がありますね。
BMW801は空冷星形14気筒とはいえ、1600馬力とか1700馬力とかあって、零戦の栄なんかとはものが違うし、いっちゃえばBf109のDB601を凌駕し、DB605に匹敵する。パワーがダンチなんだよ。そんなときはどうする?
でも高高度性能はいまいちで、6000m超えるとちょっと残念だったらしい。だからなんでA型で成層圏なのかってのよくわからないし、D型を持ってこなかったのもちょっと不思議な感じです。当時の情報量というか情報の解像度の問題だったのか。
まとめ
「音楽家の兵士」ということでは「戦場交響曲」と類似点が多いです。楽譜も吹っ飛ぶし。才能のある若者が無為に散ることへの憤慨が、2作目にして既に明示されます。「戦場交響曲」も「音速雷撃隊」も然り。
主人公の恋人を誤射したM4の乗員が「やっちまったのは仕方がない。司令部に帰ってビフテキ食おう」などと悪びれることがない点、いささか連合国兵士への嫌みがあるのでしょうね。そこまで描かなくてもなあとも思います。
セミ。最後までよくわかりませんでした。昆虫関係にも思い入れのある零士としては、限りある人生を歌うことに費やすセミには強い思い入れがあったのでしょう。
スイスに恋人が逃げる話、新谷師匠のMe262の話でもありましたね。せつないなあ。
ゆるさんぞべーへー!((C)新谷師匠)
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