概要
初出
作中日時
不明。おそらく1944年夏から秋頃
関連場所
エクロバン島南方。カモイ岬
おそらく架空の島だが、モデルはレイテ島ないしミンダナオ島か?
登場人物
ヘンリー(F6Fパイロット)
ボルカニック(F6Fパイロット)
敷井大尉
狙撃兵
コルセアパイロット
バーンサイド(F6Fパイロット)
シャープス(F6Fパイロット)
登場兵器
PBYカタリナ
キ84四式戦闘機「疾風」
P-40
コルセア
三八式狙撃銃
コルトM1911
十四年式拳銃
九四式拳銃
あらすじ
救援のPBYカタリナが駆けつけるが、引き揚げられたパイロットの眉間は銃弾で撃ち抜かれていた。海岸からはほぼ1000m。離水しようとした瞬間、後方から四式戦闘機「疾風」に襲われる。
たまたま通りかかったヘンリー、ボルカニックの2機のF6Fが挑むが、二機とも撃墜される。
四式戦のパイロット・敷井大尉は狙撃兵を味方と想定したが、ボルカニックを埋葬しようとした行為に威嚇の射撃を受け、また墜落した四式戦は狙撃兵の焼夷徹甲弾で打ち抜かれ、焼却されてしまうのだった。
それでも狙撃兵を友軍と仮定し、狙撃兵を探す敷井大尉。撃墜されたP-40の残骸を確認していると、陸軍の狙撃兵に遭遇する。敷居大尉は官姓名を伝えるが、狙撃兵は名乗ることを拒否し、敷井大尉を隠れ家に連れて行くのだった。
隠れ家には狙撃兵の輸送船が撃沈された後に海岸に流れ着いた大量の兵器、弾薬が備蓄されていた。もうここに1年いるという。自分の輸送船を撃沈した航空機を恨み、パイロットを狙撃することに情熱を燃やしているらしい。
外を見ると今度はコルセアが墜落してくる。パイロットを狩るために隠れ家を出る二人だが、敵のパイロットを目撃した敷井大尉があせって射撃したために、コルセアパイロットを取り逃がし、警戒させることになる。
コルセアパイロットと対峙する敷井大尉。拳銃での打ち合いとなる。楽しそうに観戦する狙撃兵だったが、撃ちあいは敷井大尉の勝利に終わる。勝利の要因は、コルセアパイロットのコルトM1911に対し、敷井大尉の14年式拳銃の命中精度が高かったからだと評価する狙撃兵。
100㎞歩いてここから脱出すると宣言する敷井大尉に対して、ここはパイロットがたくさん落ちてくる楽しい場所だと脱出を拒否する狙撃兵だった。
最後に自分の94式拳銃を14年式拳銃と交換して欲しいと希望する狙撃兵だったが、敷井大尉の「こんなものでよけりゃ」という言葉に激高する。
「世界にはもっといい銃がある」
という敷井大尉に
「世界にどんないい銃があったとしても、俺にはこれしかないんだ。だからこれが一番いいんだ」
と三八式狙撃銃を振りかざす狙撃兵だった。
いらだち「もしあんたでも今度見たら撃つかもしれない」と宣言する狙撃兵。
後日、同空域。
四式戦闘機「疾風」を一式戦闘機「隼」と誤認して挑むシャープスだったが、あっという間に返り討ちにされ、バーンサイドは命からがら離脱する。
パラシュート降下するシャープスだが、しばらく降下すると被弾。
その横を航過する疾風のパイロットは地表に目を向け「死ぬなよ」とつぶやくのだった。
いろいろ
いよいよ本格的に戦場まんがの開始。僕らの大好きなサンデー版です。
どこの話なの、これ?
いろんなサイトを漁っても「エクロバン島南方50㎞カモイ岬(架空)」と書かれています。
いろいろ考えているのですが、ミリオタならば「エクロバン島」と聞けば「タクロバン飛行場」てのにピーンときますよね、ふつう。
タクロバンはフィリピンというかレイテ島。四式戦が投入されたフィリピン方面でもありますし、おそらくエクロバンはタクロバンからの連想ですね。なんで誰も指摘しないんだよ。まじめに考えて読めよ。

エクロバン島、どこ?
タクロバンから南に50㎞というと例の捷号作戦の舞台にもなったスリガオ海峡の入口あたりですね。カモイ岬に似た地名を調べてみましたが、Googleマップではこの辺詳しい地名が出なくて残念。きっと似たような名前の岬があるんじゃないかと思うんですが。
「友軍まで内陸へ100㎞歩く」という狙撃兵氏の情報ですがこれはむずかしい。レイテ島は割と細長い島ですし、フィリピン方面で内陸に向かって100㎞の縦深を持つ島っていうとマニラがあるルソンか、ダバオがあるミンダナオくらいしかないじゃないですか。ルソンだとすると僻地なら北側だし、そうすると戦域からはかなり離れる。そう考えれば南のミンダナオなのかなあ。それにしたって島嶼ですよ。島の内陸にいる友軍って、そこに追い詰められてるってことなんでしょうか。よくわからん!
まあそんなことでこのお話の舞台はレイテ島南方ないしミンダナオ島北方ということにしておきます。
いつの話なんよ
四式戦は大東亜決戦機。要するに太平洋戦争も末期の機体です。実戦部隊が編成されたのは1944年3月1日付編成の飛行第22戦隊から。
フィリピン方面への展開は捷号作戦準備のためにかき集められた陸軍飛行隊に相当数の四式戦がはいっていたとか。そう考えると1944年夏以降のお話ということになります。
タクロバン飛行場が連合軍の手に落ちてからは飛行場に対するタ弾による対地攻撃もありますが、敷井大尉の飛び方はCAPっぽいかんじですので、おそらく捷号作戦直前の制空権確保の任務なんだと思います。そうすると1944年夏から秋くらいと。
狙撃兵氏、ボカチンくらってから一年いるっていってますから、そっちから追おうかとも思ったんですが、フィリピン方面なんて320隻も商船が沈んでるんで、どれがどれやら調べようもございませぬ。
1943年夏にフィリピンで沈んだ輸送船。わかんないなあ。
四式戦闘機「疾風」
キ-84四式戦闘機「疾風」
前述のとおり大東亜決戦機。実戦配備は1944年3月以降。
誉2千馬力をスマートな機体に収めた名機です。
同じ中島の直線翼で、米パイロットのようにぱっとみ一式戦「隼」と誤認するのもわからなくもない。
捷号作戦にはぎりぎりで展開が間に合った感じでしょうか。
一式戦と四式戦、零戦と雷電(紫電でもいいや)。軽戦と重戦のせめぎあいは時代のトレンドに押し流され否応なく旋回性能よりもパワーと強度の時代になるわけですが、パイロットは前者を好んだようです。性能勝負でなく、腕前でなんとかなる機材を好むのは職人としてはわからなくもないですね。
宮さんだとそのへんの(特に海軍の)軽戦マフィアを「くるくるP」扱いしておちょくって描くわけですが、零士的にはどうだったのかな。
零士の描くパイロットだと
「俺が零戦にのればF6Fにも勝てる。F6Fに乗れば零戦にも勝てる」
と言いそう(というか言った)。
関係ないけど、零士が描くパイロットはパイロットがしゃべってるかんじがするけれど、宮さんが描くパイロットは宮さんがしゃべってるようにしか見えませんのよ、わたし。
機材の良しあしというのはかように使う者の腕次第ではあるのですが、この「パイロットハンター」ではその「機材」と使いこなす「技術」、そして与えられる機材の中でのベストを信じることが主題となっていきます。
だからこれがいちばんいいんだ!!

みんな大好き「だからこれがいちばんいいんだ!!」
インターネットで不朽となった伝説の一コマ。

おれにはこれしかないんだ。だからこれがいちばんいいんだ
コミケじゃコスプレする奴までいたらしく。
手に持つ道具てのは、上を見ればきりがないけれど、自分が使えるのはこれだけ。この道具をとにかく徹底的に上手に使って最大の効果を出す。それこそが道具を使うプロフェッショナルの心情。
「弘法筆を選ばず」なんて甘っちょろいものじゃない。命がけなんですよ。
撃墜されるF6F
冒頭最初の一コマで描かれる被弾したドラグーン44。
これはすごかった。主翼胴体穴だらけで随所からオイルが噴出し、主脚のロックがはずれて脚がおちています。F6Fは90度ひねって引き込む主脚ですが、その引き込みが落ちている様子。こんなの初めて見ました。
クシャッ
さあ、何の音でしょう。
撃墜されるF6Fから一ページめくると、三八式狙撃銃に弾丸を装填する狙撃兵。その擬音がこれです!
ボルトを「ガシャッ」とロックンロール。上空に銃口を向けて照準眼鏡を除く狙撃兵。照準眼鏡の中に映るターゲット。そしてタイトルコールの「パイロット・ハンター」
しびれるッ!
「グリーンスナイパー」の四式自動小銃もそうだけれど、銃に厚みを感じますよね。サイドビューだけのペラペラじゃない感じ。いかす!
フランク、オスカー
連合国側コードネーム文化、私はここで初めて知りました。ゼロ戦が米軍に「ジーク」と呼ばれてるのは知ってましたよ。でも「オスカー」と「フランク」は初耳でした。
ここでフランク、オスカーを知るまでは、米軍がほとんどの日本機男の子か女の子の名前を付けてるなんて知りませんでした。本当にこの戦場まんがで初めて知ったんですよ。戦場まんがに出てくるコードネームだとあとは「紫電」の「ジョージ」とかですか。
ヨーロッパ戦線ではドイツ機をどう呼んでたのかな。普通にFockeとかMesserとか言ってたのかな。
逆にドイツ人の方が自分とこの期待に「エミール」とか「グスタフ」とか「ドーラ」とかコードネーム付けてたりするけど。
飛行機もあいつの方が上等らしい
米軍Pから「プロ」と賞される敷井大尉、腕もいいけど飛行機もいい(零士にしては顔も珍しくハンサム、リチャード・ギアっぽい)。
最高じゃないですか。
「飛行機もあいつの方が上等らしい」というセリフは、このお話が「道具の優劣と使いこなす腕前」に関する話だという伏線でしょうか。
墜落する四式戦
墜落していく四式戦、横からと斜め後方、墜落後に開眼に突き立ったサイドビューの合わせて3カットがありますが、どれもコクピット後ろがしゅっとしてて零戦ぽいです。なんでかなあ。
中島の飛行機は背中はもうちょっと武骨な感じがしますよね。
白抜きでトーンもベタもないから、実際の塗装的には銀塗装なのかな。
焼夷徹甲弾
防弾処理された四式戦を焼却処理するために放たれる焼夷徹甲弾。この一撃で「焼夷徹甲弾が狙撃兵の最大の武器なのだ!」と心を撃ち抜かれたミリオタも多かろう。ゴルゴ、なんで焼夷徹甲弾撃たねえんだよ。あれなら戦車だって撃破出来るだろ、と思っていました。
後の「天使の徹甲弾」ではモシンナガンでとっておきの焼夷徹甲弾を撃つシーンがありますが、一発撃つとライフルが破損するみたいな描かれ方です。
6.5ミリ焼夷徹甲弾。存在したらかっこいい!
完全に余談ですが、零士の弟子の新谷師匠が描いた訓練用模擬弾・IM-16は実際に信じちゃった人が多くて、ぐぐると知恵袋などでとくとくと実在するIM-16を語ってる人がいて実に趣深いです。
こうやって他人のこと笑ってますが、かくいうわたしも新谷師匠が描いたF-4に搭載する「消火弾」てのが実在の装備だと思ってて、空幕にメール打って聞いたら「我が隊にそのような装備は存在しません」と鼻で笑うような返信を頂いたことがあります。
いいんだよ。俺の心の中では消火弾も実戦装備なんだよ!
P-40
え、どこに出てきましたか!?と思うかもしれませんが、敷井大尉が狙撃兵を探しに行った時に「こりゃ古いな」と発見する残骸が、おそらくP-40です。米軍のファストバックの液冷エンジンですので、わたしはずーっとP-51Bだと思っていました。
今回まじまじとみたら、キャノピーが後ろスライドで開いてる(P-51Bは上下開き)。

P-51B/Cのキャノピーは上下に開く
それに零士の描いたカットには主翼内翼に主脚スペースと思えるようなコブがある。

P-40の主脚は収まりが悪くて、カバーが出っ張ってる
これはウォーホークですね。昔はそんなの気が付かなかったよ。残骸の一つもおろそかにしない。
零士えらい!
でもP-40にしちゃ作画が少々スリムな気がするんだよ。だから私もいままでP-51Bと誤認していたのですが。
銃剣つき三八式狙撃銃
三八式狙撃銃は普通の三八式歩兵銃の中から精度のいいのを選んで照準眼鏡付けて使うらしいです。正式には三八式改狙撃銃。
狙撃銃なんで、ふつうは銃剣なんてつけてないはずですが、狙撃兵氏が最初に敷井大尉とコンタクトする時は銃剣付きです。
友軍と分かってからは話しながら銃剣をはずしていますので、普段からつけているわけじゃなさそうです。もしパイロットが敵だったら近距離の白兵戦をするつもりで着剣して接近してきたんですね。
そういえば、「九七式狙撃銃」という言い方もあって、三八式改狙撃銃とは実は同じものだそうです。工場で精度のいい三八式を抽出してそこに照準眼鏡付けたファクトリーメイドが九七式狙撃銃で、いったん納品した三八式を向上に戻して同じ装備をしたのが三八式改狙撃銃なんだって。
メーカーオプションかディーラーオプションかの違いらしい。
武器の山
「独立重機関銃隊」もそうだけど武器弾薬をため込んで立てこもる話、大好き。
野砲2門、迫撃砲、重擲弾筒。九十二式重機関銃。対戦車地雷、手榴弾。なんでもあり。フリーガーファウストみたいなのまである(なにあれ)。あと缶詰たくさんと日本酒2本。
コルセアPにまるごと爆破されて「おおむね160発くらいか、くそっ」ってお気の毒。
寝るときも鉄帽
寝るときもテッパチ脱がないのはすごいです。
沖田艦長は後半ずっとベッドで寝ていますが、病床にいるあいだもずっと軍帽を脱がなかったですね。
ガバvs14年式
ガバと14年式で撃ちあいです。
音が違う。
源文だとPAM!PAM!PAM!なのかな。
14年式と94式
帝国陸軍の将校さんの拳銃はどんなふうに装備されるかというと…
ふぉー。敷井大尉、たまたま十四年式拳銃を支給されたわけじゃなくて、これを選んで装備していたわけですね。狙撃兵氏も感心するわけだ。
見た目ルガーっぽいですよね。かっこいい。
そういや、十四年式はヤマトのコスモガンのモデルになったんだってー。

14年式をモチーフとしたコスモガン
うむ、たしかに。
一方、九四式の方は暴発しやすくて鹵獲した米軍からは「スイーサイドナンブ」と呼ばれたことは私も知っていました。でも口径は十四年式と同じ8ミリの十四年式実包だし、命中精度が特に悪いという評価でもない。何をもって十四年型の方がこれほど高評価だったのか、ちょっと不思議な気がします。そりゃガバよりは命中精度よかったのかもしれないけど。
でかく重くて安定してるってことかなあ。
みためルガーっぽくてかっこいいから狙撃兵氏も欲しがった、というのなら納得です。
狙撃距離1000m
「俺の射程距離は1000m」と豪語しますが、1000mで当たるの、マジすごい。以前カナダ陸軍のスナイパーがテロリスト相手に3000m超えの狙撃を成功させたとか記事になっていましたが、いまは弾道計算アプリとかもあるし、だいたい口径も違いますからね。
三八式で1000m狙撃。
たぶん戦場まんがシリーズ登場スナイパーのなかでも、トップクラスだと思います。
顔が見えない
顔を見せないままでしたが、最後の超遠距離狙撃を成功させた後、にやりと笑って顔を見せます。
しかし「あっ、その顔は!」ってことはぜんぜんなくて、誰?あんた?って感じの零士まんがによくある白目モブ兵士ですが、最後の一瞬だけ明るくなる感じは、「ターミネーター」とか「ブレードランナー」とか「ショーシャンクの空に」とかを思わせるほっかり具合だと思います。
まとめ
「戦い」のお話ではありますが、同時に「道具と職人」の話でもある。
もっといいものがあると知っていたら、なんでそれを使わせない。なんでそれを相手に戦争なんて始めたんだという叫び。
また俺が使えるものが(俺にとっては)世界で一番なんだというのはけだし真実でありまして、人の道具をうらやむようなことは職人はしてはならないということなのです。
狙撃兵氏が最後の最後に見せる素顔が、ふつうの零士的モブっぽいおっさんというのもまたいい感じです。
今回じっくり読み返してみて、やはり名作だと思いました!
次回は日本中の少年にティーガーよりも強い四式中戦車を見せてくれた「鉄の墓標」です。
Read Leiji now!
コメント